『アド・アストラ -スキピオとハンニバル-』

第二次ポエニ戦役を描いた漫画。四巻まで読了。


アド・アストラ 1 ―スキピオとハンニバル― (ヤングジャンプコミックス)

アド・アストラ 1 ―スキピオとハンニバル― (ヤングジャンプコミックス)


古代を描いた漫画といえば『ヒストリエ』がまず思い浮かぶ。で、『ヒストリエ』の作者である岩明均は、第二次ポエニ戦役を描いた『ヘウレーカ』という漫画も描いている。こちらは、ハンニバルの戦いが主眼ではなく、アルキメデスの話が主眼だったけれど。で、その延長線上にある漫画であることは確かだと思う。あと、塩野七生の『ローマ人の物語』の人気もあるかと。


物語としては第一次ポエニ戦役の直後からはじまって、ローマに踏みにじられたカルタゴが、ハンニバルの旗の下でリベンジマッチに挑む。この辺りの勝者の傲慢さと、裏返しとなるボコボコにされる描写が、良く描けていると思った。勝者の奢りのようなものがあればあるほど、敗北したときのザマミロ感が増えるなぁ。


ロジック的には『カイジ』の、思考過程が描かれるほうが負ける、というストーリーの作り方が徹底されている。面白いのは、ローマの内部の対立においても、思考過程が描かれるほうが負ける、ということ。4巻末でカンナエの戦いの直前までストーリーが進み、得体の知れないハンニバルが最強に位置しているのだけれど、最終的なローマの反抗を踏まえた描き方をしていると思う。


絵柄は木多康昭の影響が強い。というか、アシスタントとかをしていたのでは? 絵柄もそうだけれど、主要キャラのガイウスのキャラクターの作り方が、木多康昭のギャグキャラを彷彿とさせる。また、ガイウスについては、おそらく『ナポレオン 獅子の時代』などの戦史漫画を踏まえたものになっていると思う。


欠点は、今のところハンニバルの破竹の勢いが続いているが、ローマ側は同じような展開が続いているということ。「ある指揮官がハンニバルをあなどる」「スキピオファビウスが警鐘を鳴らす」「その指揮官がハンニバルに打ち破られる」「反省して、心を改める(もしくは死ぬ)」という流れ。ハンニバルが得体の知れない強者として描かれるがために、ローマ側にバラエティを持たせる必要があると思うのだが、展開的にも人物造形的にもワンパターンにすぎる。


最大の問題は、カンナエの戦い後の第二次ポエニ戦役を、どういうふうに展開させていくかだと思う。今のところ戦争はローマ国内に限定されていて、順を追って説明すれば事足りる。だが、カンナエ以後は地中海全体に広がるわけで、そこにはハンニバルスキピオの関わらない重要な戦いも出てくる。さらに、ハンニバルが得体の知れない男から、得体の知れる男になる(そうなることによって、ローマに敗れる)展開をどうするかも、漫画家の腕の見せ所だ。


まだ、具体的な評価を下すところまではできないけれども、第二次ポエニ戦役の前半のクライマックスである、カンナエの戦いに至る5巻以降が楽しみ。