『アド・アストラ -スキピオとハンニバル-』
第二次ポエニ戦役を描いた漫画。四巻まで読了。
アド・アストラ 1 ―スキピオとハンニバル― (ヤングジャンプコミックス)
- 作者: カガノミハチ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/10/19
- メディア: コミック
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古代を描いた漫画といえば『ヒストリエ』がまず思い浮かぶ。で、『ヒストリエ』の作者である岩明均は、第二次ポエニ戦役を描いた『ヘウレーカ』という漫画も描いている。こちらは、ハンニバルの戦いが主眼ではなく、アルキメデスの話が主眼だったけれど。で、その延長線上にある漫画であることは確かだと思う。あと、塩野七生の『ローマ人の物語』の人気もあるかと。
物語としては第一次ポエニ戦役の直後からはじまって、ローマに踏みにじられたカルタゴが、ハンニバルの旗の下でリベンジマッチに挑む。この辺りの勝者の傲慢さと、裏返しとなるボコボコにされる描写が、良く描けていると思った。勝者の奢りのようなものがあればあるほど、敗北したときのザマミロ感が増えるなぁ。
ロジック的には『カイジ』の、思考過程が描かれるほうが負ける、というストーリーの作り方が徹底されている。面白いのは、ローマの内部の対立においても、思考過程が描かれるほうが負ける、ということ。4巻末でカンナエの戦いの直前までストーリーが進み、得体の知れないハンニバルが最強に位置しているのだけれど、最終的なローマの反抗を踏まえた描き方をしていると思う。
絵柄は木多康昭の影響が強い。というか、アシスタントとかをしていたのでは? 絵柄もそうだけれど、主要キャラのガイウスのキャラクターの作り方が、木多康昭のギャグキャラを彷彿とさせる。また、ガイウスについては、おそらく『ナポレオン 獅子の時代』などの戦史漫画を踏まえたものになっていると思う。
欠点は、今のところハンニバルの破竹の勢いが続いているが、ローマ側は同じような展開が続いているということ。「ある指揮官がハンニバルをあなどる」「スキピオやファビウスが警鐘を鳴らす」「その指揮官がハンニバルに打ち破られる」「反省して、心を改める(もしくは死ぬ)」という流れ。ハンニバルが得体の知れない強者として描かれるがために、ローマ側にバラエティを持たせる必要があると思うのだが、展開的にも人物造形的にもワンパターンにすぎる。
最大の問題は、カンナエの戦い後の第二次ポエニ戦役を、どういうふうに展開させていくかだと思う。今のところ戦争はローマ国内に限定されていて、順を追って説明すれば事足りる。だが、カンナエ以後は地中海全体に広がるわけで、そこにはハンニバルやスキピオの関わらない重要な戦いも出てくる。さらに、ハンニバルが得体の知れない男から、得体の知れる男になる(そうなることによって、ローマに敗れる)展開をどうするかも、漫画家の腕の見せ所だ。
まだ、具体的な評価を下すところまではできないけれども、第二次ポエニ戦役の前半のクライマックスである、カンナエの戦いに至る5巻以降が楽しみ。