『覚悟のススメ』


覚悟のススメ 1 (少年チャンピオン・コミックス)

覚悟のススメ 1 (少年チャンピオン・コミックス)


こういう漫画だったとは!
というのが第一感想。


どういう内容なのかは朧気には知っていたけれども、実際に読んでみると、唖然とするほど突き抜けたものになっていて驚いた。作者は『シグルイ』の山口貴由。核戦争と自然破壊で廃墟同然と化した東京で、第二次世界大戦の遺物である強化外骨格を身に付けた少年、葉隠覚悟が、血を分けた兄であり、父を殺し、戦術鬼という怪物を率いる葉隠散と戦う……というのが大まかな筋。


読んで、まず驚いたのは、敵となる戦術鬼のビジュアル。一番最初に登場する破夢子からして陰毛が出ているし、永吉は男性器が露出している。で、主要登場人物はよく脱ぐし、『バイオレンスジャック』の人犬みたいなのまで出てくる。というか、世界観はほぼ『バイオレンスジャック』と言っていいと思う。『バイオレンスジャック』のSM的描写が薄まると『北斗の拳』になって、『バイオレンスジャック』のSM的描写が極まると『覚悟のススメ』になる。


シグルイ』は「体制に蹂躙される個人」というSM的な要素があったが、本作の場合は肉体のSM要素が本当に露骨で、これをチャンピオンで連載した作者も編集部もすごいと思った。チャンピオンは『グラップラー刃牙』で感覚が麻痺していたのだろうか。そして、(世間一般の)三島由紀夫のイメージと仮面ライダー。この三つが混ざり合って、『覚悟のススメ』はできている。仮面ライダーも元々は、ナチスに由来するショッカーの改造人間が、逃亡したという設定だから、変身ヒーローものと第二次世界大戦の相性は良いのかもしれない。


ストーリーは、インフレバトル漫画そのもの。11巻できっぱりと終わったところに価値がある。インフレバトルを打破する方法として、能力バトル漫画が出てきたりと、いろいろとバトル漫画の方法論は変わってきているけれども、「話を描ききったら終わらせる」という真っ当な解決策もあるというわけだ。そして、終わらせることができれば、インフレバトルは今でも通用する。『覚悟のススメ』はその良い見本だと思う。


究極の日本男児である葉隠覚悟は英雄神になり、人類を守るために戦い、性を超越(というか女性化)した葉隠散は大地母神となって、「星義」のために戦う。そういう神話的な物語の構造が、破天荒なビジュアルや設定、セリフ、内容を下支えしている。覚悟が守るべき学校が「逆十字学園」だったり、ヒロインの名前が罪子だったり、散が性転換したキャラクターだったり、掘り下げた解釈ができる漫画だと思う。


個人的には、『覚悟のススメ』にはあったギャグ要素が『シグルイ』にないのは残念だなぁと思った。『シグルイ』は原作付きの漫画なので、ギャグ要素を加えるのが難しかったのかもしれないが。