『きっと、うまくいく』

名画座で鑑賞。パンフレットは、この映画単体のものでなかった(『4ボリウッド』という括りのパンフレットだった)ので購入していない。


【ストーリー】
インドの工科大学に入学した男は、驚くべき才能とユニークな考え方で、大学に波乱を巻き起こすが、彼には秘密があった……


【見所】
インドってなにもかもデカい!
と感じた映像美。優れたエンターテイメント映画で、満足度も高い。


【感想】
うん、良かった。
80点!


素晴らしいという評判は以前から聞いていたので、鑑賞するのが楽しみだった作品。久しぶりに休憩中断のある映画を見た(といっても、観たのは『七人の侍』だけ)し、インド映画を本気で鑑賞したのはこれが初めてだと思う。インド映画について僕が持つ浅はかなイメージ、「歌と踊りでとにかく楽しそう」というのは、実際そうだったけれども、それ以上に深い内容だった。インド映画と言えば「スーパースター」ラジニカーントしか知らないので、とにかく面白いという評判だけで観ることができたのも良かった。


教育を題材とした映画。発展途上のインドらしく創造性よりも暗記や就職を重視する工科大学で、天才が入学してきて波乱を巻き起こすという内容。「きっと、うまくいく」というのは、天才学生ランチョーの口癖。暗記教育中心の学校で、天才がいろいろな騒動を起こすというストーリー自体は、これまでハリウッドでも日本映画でも、漫画でもたくさん描かれてきた。発展途上国であるインドが、先進国になろうと葛藤するところで、創造性を獲得しようと頑張っている最中に、この映画が登場したのかなと。そういう意味では、「日本ではこの頃の話かなぁ」と連想しながら観てしまうし、現代的な普遍性も感じられた。


インド映画なので歌と踊りが要所要所で入るけれども、今作に関してはかなり控え目。この映画は、ランチョーを探す「現在」のパートと、ランチョーが大学で騒動を巻き起こす「過去」のパートの二つがあって、歌と踊りは過去の部分に限定されている。過去の部分に歌と踊りがあるということは、ファルハーンとラージュにとって楽しい思い出であることを表現しているのかなと思った。歌と踊りが挿入されるという「お約束」にも、ある程度の法則があるのは良い。


なにより、「笑って泣いて」という映画に求められる機能が全開になっているところも良かった。「親を敬う」という部分がかなりクローズアップされているのは、インド的な価値観の現れだろうか。また、「優秀であれば成功はついてくる」という主題が貫かれていることが、ご都合的な展開でも違和感なく観られる原動力になっている。ただ、ランチョーが余りにフリーダム過ぎるところは、個人的にはマイナス点だった。特に、チャトゥルに対する、スピーチの差し替えの話は、ちょっとあんまりじゃないかと思う。モラルの高さと、リテラシーの低さ、というマイナス点は、昔の映画や途上国の映画では多々観られる。


映像的な見所は、インドの風光明媚な景色がバンバン映るところ。特に、ラストの湖の美しさはとんでもなかった。インドといえば、コルカタの街並みとタージマハルしかイメージになかったけれど、大国に相応しい自然豊かな土地で、それを観るだけでも楽しい。大学もとんでもなくデカいし。


あと、最大の問題点としては、この映画のストーリーが世間を騒がせている「STEP細胞」を連想させるところにある。主人公が天才だから、このストーリーの帰結がハッピーエンドで終わったけれども、未熟であれば小保方氏になるのでは? 特に、卒業試験の問題をランチョーたちが盗むところは、それが意味するところは博士論文のコピペ以上のものがあるだけに、観ていて微妙な気分になった。もちろん、これは僕の中の問題なのだけれど、悪役として描かれる学長のほうが、人間としてまともじゃねーかと。『きっと、うまくいく』はインドの現在的な問題を描いているけれども、その解決として提示されていることにも問題があるよねぇ。


ただ、映画自体は本当に満足度が高くて、笑いあり涙あり、波乱万丈な展開で一瞬も飽きなかった。同時上映の映画もあったけれど、それを観る体力がなかったくらい。インド映画に興味があったら、一番最初に観るべき映画かもしれない。