『ブレイブ・ハート』

スカパー!で鑑賞。



【ストーリー】
スコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスの一代記。


【見所】
派手な野戦。
スコットランドスコットランドだよね?)の大自然と、ケルト音楽。


【感想】
メル・ギブソン絶頂期の映画で、なるほどこれは面白い。スコットランドの英雄、ウィリアム・ウォレスを描いた物語で、だいたい史実に沿った内容になっている。有名なスターリング・ブリッジの戦い、フォルクカークの戦いが描かれるし、ロバート・ブルースをはじめとするスコットランド貴族との微妙な関係、長脛王エドワード一世のも踏まえている。さすがにエドワード二世の后と愛し合うのはどうかと思ったけれど。


Wikipediaを読んでみると、『ブレイブハート』の史実とフィクションの相違点が挙げられていて興味深かった。明らかにフィクションだと分かる后との恋愛はもちろんのこと、序盤の重要なキーワードである初夜権がなかったことや、スターリング・ブリッジの戦いなのに橋が出てこない(これはロケ地の関係で仕方がなかっただろうけれど)、さらには印象的な顔に青い塗料を塗る戦装束など、思ってもみない点もフィクションに上げられていた。『ブレイブ・ハート』のウィリアム・ウォレスって、最後のケルトの英雄という描かれかたをしているので、顔を青く塗っているのかもしれない。


ウィリアム・ウォレスは単純にヒーローとしての役回りだけれど、敵対するエドワード一世と、狭間で揺れ動くロバート・ブルースの造形が非常に優れていた。特にエドワード一世の、冷酷非情なイングランド王を上手く描けていると思う。権謀術数に優れ、戦争をさせても強い。さらには、エゴの塊のような人格で、弱りきったエドワード二世をたこ殴りにするシークエンスなど、エドワード一世が出てくるだけで観ているほうは笑顔になってしまう。悪役が魅力的なほど、ヒーローも輝くわけで、その点で名作映画への貢献は計り知れない。


また、ロバート・ブルースの、ウォレスの理想に共鳴しながらも、現実的な政治に揺れ動く姿も良かった。実際のロバート・ブルースは、もっと煮ても焼いても食えない、徳川家康みたいな人だったと思うけれど。そこは、ロバート・ブルースに理想と若さを、ロバートの父親と貴族たちに腹芸を使わせるという役割分担で、分かりやすく処理している。ロバート・ブルースの父親の造形は、明確に彼の暗黒面(もしくは現実)を象徴していると感じられた。


ウィリアム・ウォレスの時代はイングランドブリテン島での覇権を確立していく最中にあって、対スコットランドの重要な3つの戦いが描かれる。映画ではイングランド軍とスコットランド軍は正面から激突していたけれども、スコットランド軍はゲリラ戦を優先していたし、イングランド軍は長弓兵と騎兵の連携に苦労していた。対スコットランド戦争で、イングランド軍は長弓兵と下馬騎士の連携による必勝の戦術を編み出して、それが対仏百年戦争に繋がっていくのだけれど、この映画では正面激突を優先させている。


なので、「統制されたイングランド軍vs野蛮なスコットランド軍」という図式になっていて、それはそれで迫力満点なんだけれど、地形や用兵によって勝利する史実の面白さはなかったかなぁと。ただ、アイルランド軍がいきなり寝返る描写は面白かった。当たる当たる当たる〜というところで、いきなり握手という展開は笑えた。フォルカークの戦いはロングボウが大活躍した戦いで、劇中でもそのように描かれるけれども、もうちょっと脅威を強調してもよかったかなと。


ストーリーはフォルカークの戦いからの展開が冗長に感じられた。物語が内ゲバのほうに重点が移ってしまうからかもしれない。史実との兼ね合いがどうしても必要になるので、仕方ないといえば仕方ないのだけれど、もう少し描きようがあったような。前半は、ヒロインがいきなり死んでしまうところから、スターリング・ブリッジの戦いまでトントン拍子に続くだけに、フォルカークの戦いのあとは「どう終わらせるんだろう」と久々に心配になってきた。ただ、英雄が死に、その意志を継いだ人間が新たな戦いをはじめる終わりかたは『300』にも踏襲されている定番だなぁと感じられた。


難点は、やはりウィリアム・ウォレスが完璧超人すぎるところか。崇高な理想を持った武闘派が、もっと政治的な穏健派に煙たがられるというのはありがちだけれど、もう少しバックボーンを詳しく描くか、複雑なパーソナリティにしてほしかった。もしくは、イングランド軍のほうにも、崇高な理想を持った人間を置くか。ある意味、王妃がその役目を担っているのだけれど、崇高な理想というよりも見境のない愛のように見えるし。メル・ギブソンは良かった。ちゃんと拷問受けるし(そこか)


というか、『ブレイブ・ハート』は二人の人物に、一つの属性の光と闇を代表させていると思った。ロバート・ブルースと父親、抑圧された王妃と奔放な侍女、冷酷なエドワード一世とバカなエドワード二世、ウィリアム・ウォレスとアイルランドの盗賊など。もう少し、詳しく鑑賞してみると面白いかもしれない。