『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

映画館で鑑賞。パンフレットも購入。


【ストーリー】
90年代のウォール街を舞台に、詐欺同然の株式仲買人の、ドラッグ! セックス! 金儲け! の乱痴気騒ぎを描く。


【見所】
ドラッグ!
セックス!
金儲け!
つまりこの映画は全てが見所。


【感想】
100点!


超面白かった。71歳のマーティン・スコセッシが出してきた史上最高のパーティー映画。


前評判の高さと、タマフルの映画評を事前に聴いていたので、面白い映画なんだろうな〜と思って観ていたら、最初から最後までハイテンションで進むエクストリームな乱痴気騒ぎにお腹いっぱいになった。たぶん、ここ数年で一番笑った映画かもしれない。悪趣味、下品、羨ましい! それを3時間も観させられると、観ている側も壊れてくるよね。しかし、心地よい壊れ具合。満腹で、良いもん観たわ〜という帰り道だった。


監督はマーティン・スコセッシ。言わずとしれた『タクシードライバー』や『グッドフェローズ』の監督で、ほとんどレジェンドな人物なんだけれど、こんなに下衆で楽しい映画を作るとは! 本当に、老人が撮った映画で、こんなに知能指数の低いシーンを延々と観せられるとは思わなかった(ほめ言葉)。最初の小人を使った人間ダーツから、「この映画は徹底してこんな調子です」というテンションで、それが最後まで続くという極上さ。久々に観ないと人生を損するレベルの映画と出会えた。


とにかく、この映画は顔を真っ赤にしていきり立った、レオナルド・ディカプリオのやりすぎ演技を観るだけ。でも、ここに描かれるのは、堅実さや平等とは掛け離れてはいても、別の世界の頂点だ。なんにせよ、究極を観るのは超楽しい。


株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォードが舌先三寸で電話を掛けまくり、クズ株でボロ儲けして、社員を鼓舞し、無茶苦茶なことをしまくる。その狂乱といってもいい世界に鑑賞していると自分も揉まれる気持ちになる。男も女もウォール街の祭典に熱狂して、DJであるディカプリオが「ファック!」とか「マザーファッカー!」と言うほどに、社員が全員「うぉおおおお!」と雄叫びを上げる。あれを観ると、誰でもカンフル剤を打たれたみたいになるはず。なんというか、ロックスターのステージを観るような感覚だ。


もしくは、『ヘルシング』の少佐の演説を聴いている雰囲気。



これが3時間続く、というのが一番近いと思う。


見所や、語りたくなるシーンは山ほどあって、ジョーダン・ベルフォードの先輩(マシュー・マコノヒー)が昼飯中に「んーん、んーん」と歌いながら株式ブローカーの仕事について語るところや、筋弛緩剤でグダグダになったディカプリオがランボルギーニに乗ろうとするところ、ボールペンを売ってみろと言うところなど、誰もが印象に残る場面はあるけれど、その他にも印象に残るシーンが誰にも1つ2つ〜5つくらいはあるはず。なにしろ、この映画は全編見所だけで作られた怪作なのだから。ディカプリオは役者としてとんでもない境地に入りつつあるとしみじみ思った。ジャック・ニコルソンみたいなキレ演技がとても素晴らしい。


僕が好きなシーンは、「ディカプリオがヴェニスというSM嬢にお尻にロウソクを突っ込まれて責められるシーン」「船上パーティーで、みんなで手を左右に振るシーン」「ディカプリオの引退撤回スピーチ」の3つは超良かった。前の2つは、よくもまあこんなバカなシーンを臆面もなく撮れるよなぁというスコセッシの凄み。後者の1つは人間の心を鼓舞するというディカプリオの凄みがあった。しんみりとしたスピーチから、引退を撤回して、あの「んーん、んーん」を全社員で胸を叩くという。アドレナリンが振り切るというのは、こういうことを言うんだろうなぁ。あと、フォーブス誌にこき下ろす記事を載せられた直後に、入社希望者が殺到するというシーンも笑えた。そりゃあ、社内でストリッパーが踊りまくる会社だったら、1ヵ月だけ働いてみたいと思うもの(1年働いたらたぶん死ぬ)


俳優陣はみんな良かった。脱ぎまくる女性たちのおっぱいの形の良さも最高。金魚を食べるジョナ・ヒルと、父親役のロブ・ライナーも印象深い。ディカプリオとロブ・ライナーの親子が、社長室で真剣な顔で「今の女は眉毛から下はツルツルで……」と話す場面のアホさにも爆笑した。ラストのセミナーのシーンに、司会者としてジョーダン・ベルフォード本人が出てくるけれど、その軽薄な感じも面白かった。ああいう顔じゃないと、こういうバカ騒ぎはできないよねぇ。パンフレットを読むと、ジョーダン・ベルフォードとレオナルド・ディカプリオは、意気投合して2人で遊びにいったりしたとか。


欠点はほとんどない。3時間もの映画は、観る前は尻込みしてしまうし、観ていて中だるみを感じるときも多々あるけれど、この映画に関してはまったくそう言うことを感じなかった。たぶん、相性が良かったという面が大きいとは思うけれど。予告編にあったような、スコセッシといえば思い浮かぶような犯罪映画っぽさは、意外になかった。もちろん、人間を宙吊りにしたりもするものの、そう言うのが見せ場にはなっていない。見せ場は、とことんディカプリオの独演会だ。そして、「狼は生きろ、豚は死ね」的な世界観にどれだけ乗れるかが試される。スコセッシはパンフレットで現代批評性のある映画のように語っているけれど、どう考えてもそんなつもりで監督していないのは明白だ


とにかく主張もなにもないし、ドラッグ・セックス・金儲けだけの映画。なのに最高! バーホーベンの専売特許だった下品さ下衆さを、スコセッシが奪い取った作品として記憶に残るはず。日本で、同年代の映画監督がこの映画を撮影できるだろうか? と考えると、スコセッシは相当ぶっ飛んでいる。宮崎駿が描く『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とか考えられないし。そして、「ファック」と劇中に500回も言ってるだけあって、それに見合う破格な映画になったと思う。ただ、18禁映画だし、女性がこの映画を鑑賞して楽しめるかと言うと微妙かも。でも、男は漢になれる映画だ。そして、男なら、今すぐ『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を観て、地下鉄で帰る人生にパンチを打ち込むべきだ。


パンフレットは値段に見合った内容。コラムが3つあるのはお得。


【おまけ】
意外に他のブログや感想を読んでみると、「倫理的にどうか」という内容が多くて驚いてしまった。たしかに、この映画に倫理は求められないのだけれども、実際『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の世界は、別の惑星の物語のようなもので、もはや倫理などを超越していると言っても過言ではない。また、昨今の格差やオキュパイド・ウォールストリートのニュースなどから、スコセッシが金持ち側を描くことに疑問を持つ向きもあるが、この映画は「生き方」についての映画であり、社会批評性を持たないのは、被害者側を最後の最後まで描かないことからも明らかだろう。


また、この映画はウォール街に生きる「狼」の生態を、普通ならまったく接点のない下々が観ることができるという意味で、非常に価値がある映画だと思う。敵を知ることこそ、戦いで勝利する唯一の道。そして、ビルのてっぺんで乱痴気騒ぎをしている様を暴露することは、最も効果的な抵抗であるとも言えるのでは?