『ヘウレーカ』
- 作者: 岩明均
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2002/12/19
- メディア: コミック
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岩明均の短編漫画。第二次ポエニ戦役で、カルタゴ側についたシラクサをローマ軍が攻撃するが、シラクサには天才数学者アルキメデスが建造した機械によって、難攻不落の都市になっていた。その戦いに巻き込まれたスパルタ人ダミッポスの物語。この作品が好評を得て、『ヒストリエ』が誕生したのだと思う。
かなり史実に忠実なストーリーで、主人公のダミッポスがシラクサ陥落の切欠になったことも歴史書に書かれていることらしい。ローマ軍をこてんぱんにするアルキメデスの機械については、信憑性については疑問符がつくけれども、伝承などで語られているものに寄っている。ディスカバーチャンネルの『怪しい伝説』で、熱光線についての実験をしていて、頑張れば火は付くけれども実用的ではないとか、シラクサの地理では太陽光で発火するほどの光を集めることはできないらしい。
岩明均の洗練されていて動きのない絵が、残虐描写で生きるなぁと感じるのは、客観的なリアルさを追求するのではなく、心象風景を通したリアルさを描いているからだ。主人公が冷静な人物であることで、彼の目を通した「客観性」が不思議なリアリティに繋がるのは、『寄生獣』のキャラクターなどで試行錯誤して身に付けたものだと思う。アルキメデスの蒸気砲で阿鼻叫喚になった戦場が、グロい描写なんだけれど落ち着いて見えるのは、ダミッポスが最後まで冷静なままだからだ。
作品としては、第二次ポエニ戦役という古代世界の魅力と、アルキメデスの兵器の面白さがほとんどを占めていると思う。ダミッポスとクラウディアの関係はおまけ程度な描かれかたのような気がした。多分、単行本一冊で終わらせるようにストーリーを構築していると思うのだけれど、それがために「話を終わらせるため」という以上の描かれかたはなかった。これが『ヒストリエ』になると、エウメネスとサテュラのエピソードがすごく泣けるようになっているのに。
あと、細かいところだけれど、ハンニバルの目が斜視になっているのは隻眼という話に由来している。ストーリー上、ローマ軍は良いところなしで、シラクサ陥落もダミッポスの助言があったからなので、序盤にローマ軍の強いところを見せるような描写があれば、もっと面白くなったはず。それと最近の歴史物の漫画には、解説のコラムが付いていたりするのだけれど、この作品にもそういう解説があったら、お得感が増したと思う。さすがに『ヒストリエ』になると、史実と脚色の関係で解説しづらいところがありそうだけれど。