『ナポレオン 獅子の時代』

続編の『覇道進撃』まで読んだ。


ナポレオン 1―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

ナポレオン 1―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)


名前は本当に有名なナポレオン・ボナパルトの一代記。アウステルリッツ三帝会戦から物語がはじまって、時代が後戻りして、コルシカ島に生まれたナポレオンが、フランス革命後の混乱から軍人として出世していく姿を描く。作者は長谷川哲也


絵柄は序盤は原哲夫の影響が顕著(アシスタントをしていたらしい)だけれど、どんどんオリジナリティが増していって、それとともにテンションもどんどん上がっていく。ロベスピエールは政敵をどんどんギロチンにかけ、ナポレオンは大砲をぶっ放し、将軍も政治家もやりたい放題、とにかくとどまるところを知らないという感じ。とどまることは死を意味する。


このテンションが振り切れた登場人物の大暴れぶりは、近代の野蛮さを描くのに丁度良い色の濃さだと思う。マッセナとか石鹸をかきまわす熊手みたいなものを振り回すし、スヴォーロフは怪物っぽい(史実でも怪物なんだけれど)し、政治家であってもロベスピエールやバラスなど、強烈なインパクトで世の中を動かす人間がどんどん出てくる。しかも、この世界観では末端の兵士や市民はゴミかアリのように使い潰され、蹂躙されるしかない。


ナポレオンは戦争の天才というイメージがあるけれども、その「戦争」というのが野蛮と無理と無茶を繰り返す行為だということが良く分かる。しかも、大砲や銃弾が飛び交うのだから、血と肉が飛び散るわけで、華やかさがほとんどない。そうした世界で、自分の胆力と的確な対処能力で、驚異的な機動力を生み出したナポレオンって凄いと思うし、ハイテンションな描写は漫画的でありながら、人の命をなんとも思っていない英雄の実像にも繋がっている。


物語のオリジナリティの要素も良くて、生き残ったことになっているサン・ジュストや、一兵士として地獄めぐりをするビクトルなどが、歴史ものの漫画でありながら予測不能の面白さを生み出している。ナポレオンは名前とエピソードは有名だけれど、一生を俯瞰した知識はなかったので興味深く読むことができた。幕間に人物伝や戦争についてのコラムがあるのも良い。


一方、ストーリーの省略がありすぎて、前後の脈略が分かりづらい部分があるのは残念。本当に描けば、膨大な巻数になるだけに仕方ないのかもしれないけれど。