『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』

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「この映画が好き、この映画が嫌い」といった駄話に終始することが多い有名人の映画評の中でも、この本はかなり真剣にして真面目なものだった。漫画家が映画を語るという点で言えば、これ以上ないくらいに分析的。『ジュラシックパーク』のカット割りの話など、漫画家ならではの視点が盛り込まれている。


前作、『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』が好評だったので、「期待に応えて!」ということなのか、荒木飛呂彦の映画本が出るのはファンとしては嬉しい限り。今回はサスペンス映画を中心に、荒木飛呂彦が影響を受けた映画を語り尽くしている。週刊少年ジャンプという日本文化最大のメインストリームで、黄金期にカルト的な漫画で長期連載をしたという一点だけでも伝説的な漫画家の、かなり真面目な映画についての持論が述べられている。個人的には、巻末にある荒木飛呂彦の映画研究ノートの写真! が一番の見所だった。


荒木飛呂彦がかなり分析的な作家だというのは、『死刑執行中脱獄進行中』のあとがきで短編の分類をしたときから感じていたことだったけれども、やはりそのルーツは映画研究にあったのかと納得してしまった。しかも、映画研究ノートを見ると、かなり本格的なので驚く。そういうわけで、荒木飛呂彦が作品論や創作論を語れば、それはもう面白くないはずがないわけだ。この本でも、「面白い」ということについて突き詰めて考える作者の仮説、サスペンスこそが面白さの源泉になるという論については、確かにそうだと思える部分が多々あった。


荒木飛呂彦は週刊連載していたときから、かなり映画に影響を受けているということを隠そうとしない漫画家だった。というのも、ジョジョにも「あ、これは『激突!』のオマージュね(運命の車輪)」とか「あ、これは『スピード』のオマージュね(ハイウェイ・スター)」みたいなシーンが登場するからだ。でも、それは週間連載というハードなスケジュールのなかで、アイデアを出すという部分では仕方がないと思うし、そのままというわけではなく、ジョジョ風にアレンジして楽しませるという工夫もあった。そこが単に展開をパクった漫画との決定的な差だったと思う。作品の、どこが面白いのか、どこがキモなのかをちゃんと語れるところに、ただの映画好きとは一線を画す、クリエイターならではの視点がある。


この本の読み方としては、そういう荒木飛呂彦の作品論や創作論を楽しむという面の他に、映画評としても自分が好きな映画と対比してみるという楽しみ方がある。荒木飛呂彦のサスペンス映画ランキングの中で、『96時間』が3位にランクインしているのは、僕もこの映画が大好きなので嬉しい。また、本文の中での映画評では、イーストウッドの映画は題名だけ観たら観る気がしないけれども、観たら「すごいものを観た!」と圧倒される……というくだりがあって、最近『ミリオンダラー・ベイビー』を観てそう感じた僕は激しく同意してしまった。逆に、「え?」と思ったのは、ポランスキーを『ナインズゲート』を観て評価したというところ。結構珍しいと思う。


基本、荒木飛呂彦の作風に沿って、採り上げられている映画は「サスペンス要素のある映画」で統一されているので、恋愛映画やSF映画は少ない。また、前作の『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』でもそうだったように日本映画もほとんどない。この辺りは、荒木飛呂彦の音楽の好みが洋楽一辺倒だったように、日本映画を観る気があまりしないのかな〜と。でも、この調子で色んなジャンルを語ってほしいので、温存しているという可能性もあるような気がする。格調高い作風の映画と違ってサスペンスの面白さを真正面から論じ、軽く観られがちなものにそうではないという視点を提供してくれる、という意味ではかなり質の高い映画評だと思う。