『高地戦』

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高地戦 [DVD]

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【ストーリー】
朝鮮戦争の末期、韓国軍のワニ中隊と北朝鮮軍が前線のエロック高地を取り合う。


【見所】
高地戦はダメだ!
という死体の山。


【感想】
戦争映画として凄く面白かった。


朝鮮戦争末期の前線の丘一つを巡る殺し合いという、話だけを聞けば「ハンバーガー・ヒル?」って思うかもしれないけれど、戦争というのはこういうものだ! というどうしようもなさを、正面から力強く描いている。実際、この映画はスピルバーグの『プライベート・ライアン』に匹敵していた。韓国映画の層の厚さというか、ハリウッド映画の十八番のような戦争映画でも、ちゃんと大満足の作品に仕上げていて、韓国映画恐るべし! だ。


監督はチャン・フン。この人はキム・ギドク監督の助監督をしていた人らしい。脚本や編集、キャストには韓国映画の第一戦の人が集結していて、だからこその圧巻な大作になったのだと思う。


最初は、防諜部に所属している主人公が、前線のワニ中隊で起きた指揮官の死と、内通容疑の調査をするために送られる……というミステリー仕立ての導入が、エロック高地を巡る死闘の中でどうでもよくなっていく。この、「どうでもよくなっていく」というのが、この映画の描きたい部分じゃないのかな〜と思った。前線に来た理由も、戦争をする理由も、エロック高地を奪い合う理由も、全てがどうでもよくなって、何か確固とした理由を持っていると思われていた北朝鮮軍の中隊長も、カン中尉と似たようなものだったというオチは、戦争映画によくある徒労感を表現できている。


とにかく、エロック高地を取り合う戦いが、とんでもない修羅場として描かれている。その取ったり取られたりの修羅場が連続しているので、ワニ中隊の兵士たちが感じる現実感のなさが切実に伝わった。この辺りは韓国映画の場合、韓国軍で銃撃訓練や軍隊行動のレクチャーが受けられるということや、もちろん徴兵制がアドバンテージに働いている部分があると思う。とにかく、エロック高地を登っていくワニ中隊の兵士の動きが、プロフェッショナルなスムーズさで驚いてしまう。さらに俳優だけでなく、撮影も山の上でこんな映画を撮影するという難しい要求に応えていると思う。


たくさんの戦争映画のオマージュだと思える部分があって、その元ネタ探しをしてしまうところも面白いと思った。『ハンバーガー・ヒル』とか『フルメタルジャケット』とか『JSA』とかは、たぶん映画に詳しければすぐに思い浮かぶはず。でも、それが魅力を殺さずに、増幅させる役割を持っているところに感心した。昔の戦争映画の、現代版アレンジとして優れているし、過去の傑作を踏まえた上で、「自分たちの戦争(朝鮮戦争)を描く」という作成陣の熱意が伝わるところだ。


当時の風俗や、戦争映画のフォーマットに沿った人物配置、それと「あ〜韓国映画の韓国人っぽい」と思うキャラクターなど、興味深いところが多々あった。それよりもなによりも、ラストのもはや唖然とするような理由での最終決戦の結果、エロック高地に死体の山だけが残るという描写。歴史的な俯瞰視点で言えば意義があったのかもしれないけれども、一兵士の視点にならざるをえない観客としては、戦争って嫌だね〜と心底思うラストだった。


それと、間違っても高地を巡る戦いなんかに参加したくないと強く思った。この映画って右翼的な日本人が観ても、「あ〜こりゃダメだ」と思うはずなんだよね。なぜなら、日本だって203高地とかの高地戦の記憶があるから。それに、中国の人海戦術がちゃんと描かれていて良かった。あの照明弾に照らされた瞬間に現れる、ゾンビ映画みたいな大群に唖然となる。あれはヤバいよね。戦争の犠牲になる子供の姿も惜しげもなくでてくる。なによりも、もはや理由もなく殺し合うという戦場の狂気を観ると、今が平和で良かったと本当に思う。