『4ヶ月、3週と2日』

スカパーで鑑賞。



【ストーリー】
ルームメイトが中絶をするのを、主人公の女がサポートする。


【見所】
私は悪くない!
と思っている女の暗黒面。


【感想】
なんというか、カンヌ臭が凄い。


ルーマニア映画を観るのは今回がはじめてなんだけれども、意外に現代日本と通じる部分が感じられて面白かった。チャウシェスク政権末期のルーマニアで、禁止されている中絶をしようとするルームメイトを、主人公の女性が献身的に助けるという内容。第60回カンヌ国際映画祭パルム・ドール、という受賞歴を頭に入れて観てみると、ああこれは確かにカンヌ国際映画祭が好きそうな映画だと思った。なんというか、芸術的というか、技巧的というか。


監督はクリスチャン・ムンギウという人。この映画で一気に知られるようになったらしい。序盤から長回しを多用する撮影方法で、しかも沈黙や説明の省略が多用されていて、これもカンヌが好きそうだな〜と思った。でも、長回しについては、監督の技量というよりも俳優陣の頑張りを評価したくなるところ。特に撮影的に難しそうなところはないし、ルーマニア映画なので見知った俳優は一人も出てこないのが、演技者一人一人の上手さを堪能できることに繋がった。恋人の男の母親のパーティーの場面で、輪に入れない身内トークを前にして微妙な顔のまま過ごす主人公とか、「あるある!」と思ったり。


この映画の面白いところは、共産主義政権だった時代のルーマニアの目新しさと同時に、今の日本女性にも通じる感性が描かれているところだと思う。売れる映画は、観客の自己承認欲求を満たしてくれるものが売れると言われていて、それは男性を対象にした映画だと「俺はこんなもんじゃねぇ」で、女性を対象にした映画だと「私は悪くない」という思考を満足させることが重要になってくる。で、この映画の興味深いところは、そういう女性の「私は悪くない」という感情を徹底して意地悪く描いているところにある。


なにしろ、この映画は「私は悪くない」と考えている女が二人出てくるのだから、これが衝突しないわけがないのだ。そして「私は悪くない」と考える女につきものの、「周囲の無理解(そして自分自身も無理解)」も丹念に描かれている。そもそも、共産主義政権下のルーマニアという国自体が、女性に対して無理解すぎるのよね。普通の映画だったら、そういうのを描いたとしても、救われるラストを用意して女性観客の欲求を満たすものだけれど、この映画は全然それをしない。長回しの映像によって、どんどん薄ら寒い世界で生きる女が傷付く様子を描くだけだ。


というわけで、中絶をする女性も、その彼女を助ける女性も、二人とも「私は悪くない」と考えている結果、映画はビターまま、ビターな余韻を残して終わる。この二人はこの後どうするんだろうね? この映画って、女性の欲求を一つも満たさないのよ。そして、クリスチャン・ムンギウ監督は女性に対してシニカルな見方をしているような気がする。もしくは、女性のこういう姿を描くことで男性に対して「女ってそうだよね〜、嫌だよね〜」と同意を求めているような。決して、キャッチコピーにあるような「勇気あるヒロインの物語」じゃないと思う。