『二流小説家』

積読状態だったものを、ようやく読む。


二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕


【感想】
個人的には、
「クレアたんぺろぺろしたい」
で最後まで読み通した。なので、終盤はほぼ登場しなくなるので残念。


SM手記、SF小説、ハードボイルド探偵、ヴァンパイア小説(どれもポルノっぽい)で生計を立てている二流小説家が、殺人鬼から告白本の執筆の依頼を受けるが、それが血みどろの連続殺人と、人間の不可思議さを巡る冒険の始まりだった……という内容。評判は聞いていたし、三大ベストテンの1位を獲得した本だということも知っていたし、上川隆也主演で映画化(!)されるらしいので、積読状態だった本を引っ張り出して読んでみた。結果は……面白いかった。なんというか、笑える。


ミステリーとしては普通。真犯人があの人だった、というのは驚くところでもあるけれど、ちょっと無理がありすぎませんか(日本と違って試験とか簡単なのか?)という印象だった。この辺りは、「意外な犯人!」とか「誰もが騙される!」みたいな煽り文句があったとしても、アメリカのミステリ小説って先鋭化が著しいので、特にこの小説が突出しているとは思わない。また、話が一段落してからの展開が、インフレからデフレ気味になるのも気になった。結局、そこなのか、と言われかねないけれども、クレアが出てこないし。


でも、ミステリーは主軸ではなくて、人間の隠された一面がどんどん明らかになることで話が進むという構成は面白かった。FBI捜査官は人格者だと思いきや、退職後に本を出すために主人公に敵意を向ける(職務に忠実)し、主人公の元カノは思い出の中では美化されているけれども上昇志向が強くて、今ではビジネスウーマンになってしまっている。弁護士助手は真面目な死刑廃止論者だと思いきや、主人公の小説にどっぷりはまっている。主人公に到っては隠された顔が4面くらいある。そう考えると、真犯人の言葉使いとかは「ああなるほど」と思わせるものがあった。上手い伏線よね。


全編通じてポルノ的言葉や描写が乱舞して、中盤以降は一気に血みどろの展開になるので、エログロが受け付けられない人には辛いと思う。僕は文字面だけで気持ち悪くなることはないので、結構楽しく読むことができた。どっちかというと、グロ系よりもエロ系のほうが濃厚で、特に殺人鬼のファン3人にインタビューをする中盤の、人間の秘められた欲望を覗き込むところはドキドキさせられた。人間性の迷宮に迷い込む感じ。話の構成は凝っていて、内省的で負け犬気質主人公の一人語りの合間合間に、偽名で出しているヴァンパイア小説やSF小説などが差し挟まれて、それが「いかにも!」という感じで大爆笑してしまった。とくにヴァンパイア小説は秀逸。なんというか、独り身の寂しい女性の妄想を手助けするという目的のためだけに作り上げられた世界、という二流っぽさが素晴らしい。


一人称のミステリーの常として、主人公が「信頼できない語り手」として一貫しているのも良かった。また、彼の言葉による二流小説家の悲哀、ネガティブなものの見方、強い女性に振り回される姿などは、ライトノベル的な要素が強い。「小説家になってはみたものの、うだつがあがらず、現実ってこんなもんだと落ち込んでいたら、無敵の女子高校生と出会った」って、どんな『涼宮ハルヒの憂鬱』だよ! と思ってしまった。というわけで、この小説はクレアが最高です。口は悪いけれども、無償の支援をしてくれる美少女って、世界中の小説家の理想の女性像なんだな〜と(違うかw)


序盤の二流小説家の悲哀を一人語りする場面が、やっぱり一番の読ませ所だと思う。小説家になりたい人を『ワナビ』というらしいけれども、こんな人生をもれなく送れます、というぶっちゃけ話みないなものになっているから。あ、でもクレアがパートナーになるなら二流小説家になりたい! でも死体は勘弁ね。