『秀吉の出自と出世伝説』
面白くて一気に読んだ。
- 作者: 渡邊大門
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2013/05/10
- メディア: 新書
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豊臣秀吉の人生を、最新の歴史研究と一次史料を元に俯瞰して、人間秀吉に迫る一冊。日本史上屈指の人気を誇り、「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」にあるようなひょうきんで、明るく、人間的な秀吉というイメージに対するカウンターパンチ。下賤の身分から織田信長の元で栄達し、果ては関白太閤にまで昇りつめた男の、目的のためなら手段は選ばず、ひたすら努力し、野心を持ち続け、中世的な「身分」をついに乗り越えた男の生涯に迫る。
戦国時代は本当に日本の歴史の中では「伝説」的な時代で、虚実入り乱れた話が今も語られている。秀吉もその戦国時代の主役の一人として、下克上の究極として、様々な研究がある。最近の流行では、例えば忍者だったとか、サンカだったとか、その後の急激な立身出世から実はそこまで身分は低くなかったのでは、などの仮説が立てられているけれども、この本では、そうした流行の説には否定的な立場をとり、本人の貧しさや卑しい身分から抜け出すための野心と努力によって栄達が成し遂げられた……としている。
秀吉の出自に関しては、彼が貧しい家の出であったこともあり、ハッキリしないことが多い。でも、だからこそ戦国時代という上昇志向のチャンスが高まるなかで、出世に血道を上げる秀吉の凄さが際立つ。私はこういう視点は一周回って新鮮だったし、歴史学者として真摯な歴史上の人物との向き合いかただと思う。一次史料を丹念に読み込んだり、当時の情勢についての常識的な見方、網野史観に対する批判(農民と農民以外みたいな分け方に意味はないという)には勉強になる部分が沢山あった。
人間秀吉を描く上で避けては通れない軍事的才能については、兵糧攻めや水攻めなど、秀吉の苛烈で容赦ない面を描いている。また、「中国大返し」などの神速の行軍については疑問を呈している。ただ、虚飾を剥いで考察したところを読んでもなお、秀吉の軍事的才能は疑いようもないと思った。秀吉の土木好きって、日本的というよりも大陸的だと思うんだよね。三国志やローマ軍の計略っぽい。戦国時代には中国の歴史書もかなり流通していただろうし、技術革新も含めて、日本でもこういう大戦術が可能になったのだろうが、実際に実行に移すとなると能力が問われることになる。なので、秀吉が残酷さや苛烈さを含めて、当時では傑出した英雄だったのは間違いない。
秀吉のような人でも、晩年は孤独だったという結びは、人生の虚しさを感じた。ただ、彼の今太閤というイメージは後世まで受け継がれて、明治維新などに、身分を超えた立身出世の肯定的イメージに結びつくので、歴史的役割は低くないと思う。大阪市長の橋下徹や、ソフトバンクの孫正義社長のような、叩き上げの流儀ができあがった端緒にして究極として、秀吉から学べるところは多い。