『古代ローマ人の24時間』

これは面白い!


古代ローマ人の24時間 ---よみがえる帝都ローマの民衆生活 (河出文庫)

古代ローマ人の24時間 ---よみがえる帝都ローマの民衆生活 (河出文庫)



古代ローマの生活はどのようなものだったか? それをこの本では早朝から夜更けまで、ローマ市内を散策するという体裁で、疑似体験できる構造になっている。作者のアルベルト・アンジェラはテレビの教育番組に関わっていたらしく、だからこそ、このような奇抜でありながら好奇心を満足させてくれる本を書くことができたのだろう。私が「ローマ時代についての面白い本ってなにかない?」と聴かれたら、とりあえず『古代ローマ人の24時間』か『テルマエ・ロマエ』を紹介する。


「至高の皇帝」と言われたトラヤヌス帝の代の、世界都市になったローマを舞台に、現代人である語り手(これはアルベルト・アンジェラ自身だと思うけれど)がタイムスリップして町歩きをする。そこで行われていた全てのこと、衣食住、エンターテイメント、政治、経済、建設、セックスまで、あらゆるものが題材として挙げられている。この本を読めば、古代ローマの人々がどのような世界に生き、サービスを教授し、悩み苦しんでいたのかが良く分かる。参考資料としても一級であれば、純粋に読み物としても面白い。古代ローマについての素朴な疑問、トイレはどんなだったか、1セステルティウスは何ユーロに相当するのか、どのような料理が食べられていたのか……などなど、目配せも利いている。


また、コロッセオやローマのフォルムなど、時代を象徴する建物や、アポロドロスやタキトゥスなどの人物がカメオ出演するのも、テレビ的で良かった。一方で、時代がトラヤヌス帝のときなので、ローマ帝国の最盛期であることには注意が必要かもしれない。ローマは長い時間をかけて形作られたものであるから、この本で描かれていることが別の時代では通用しない部分もあると思う。そういう意見があるのは作者本人も十分承知しているのか、自作の『古代ローマ1万5000キロの旅』では、一枚の硬貨を追って帝国中を旅するという内容になっている。こちらもそのうち読んでみたい。


古代ローマ帝国1万5000キロの旅

古代ローマ帝国1万5000キロの旅

この本を読めば「ローマ帝国」という漠然としたイメージがもっと深く理解できるはず。歴史書に出てくるような偉大な人物だけでなく、市井の人々の暮らしの中にこそ、今に通じる問題や解決法が隠されている。およそ2000年前の優れた人類文明に想いをはせることができるし、当時と今との共通点や違いを探るのも面白い。