『「もの」で読む 入門シェイクスピア』

本屋で購入。


「もの」で読む入門シェイクスピア (ちくま文庫)

「もの」で読む入門シェイクスピア (ちくま文庫)


作者はシェイクスピア全作品の翻訳を手がけた翻訳家。内容は、題名からも推察されるようにシェイクスピア作品についてのエッセイ。劇中に登場する「もの(オセローならハンカチ)」に着目しているところが面白い。また、シェイクスピアの作品に登場する女性についての論評もある。


ということなので、基本、シェイクスピアの演劇を観ている人に対して書かれていると言っても過言ではない。この、「シェイクスピアの演劇を観ている」というハードルは日本では結構きついと思うけれども、少なくとも有名な四大悲劇と『ヴェニスの商人』と『ロミオとジュリエット』くらいは、どういう話か知っていたほうがいい。教養的にも。で、その上で書かれているエッセイなので、「シェイクスピアって凄いよね!」という理解があって、はじめて面白さの入口に立てると思う。もちろん、作者は文章力が非常に高くて、何も知らなくても読める内容にはなっている。


この本の良さは、シェイクスピアの巨大さを分かりやすく語っているところにあると思う。また、演劇を観ているだけでは見過ごしてしまうようなポイントや解釈を、「もの」という視点で一つ一つ語っているところは新鮮だった。『テンペスト』の魔法の島が交換条件で成り立っているなど目からウロコが落ちた。また、シェイクスピア英語圏では聖書の次に研究されているので、言葉一つ一つに迫った考察がある。マクベス夫人をマクベスがどう読んでいたかを調べる際に、シェイクスピアが使った語句のデータベースがあって、それを照会しているなど、文学研究の一端を見る面白さがあった。


何作か劇を鑑賞してストーリーが頭に入っていたら、翻訳家の言葉の一つ一つにまで気を配る姿勢に感銘を受けると思う。一面的にストーリーを追うだけでなく、深く掘り下げる「解釈」という考え方の一助になる……そんな良いエッセイだった。