『ザ・ディマンド』

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ザ・ディマンド 爆発的ヒットを生む需要創出術

ザ・ディマンド 爆発的ヒットを生む需要創出術



ビジネス書。プロジェクトマネージャーや、経営者向きの一冊。仕事をする上でどうしてもつきまとう「それに需要はない」という問題に、成功者たちはどうやって取り組み、需要を喚起したのかという内容。理論よりも実例に分量をとっているところが、いかにもアメリカのビジネス書といったところ。著者のエイドリアン・J・スライウォツキーは経営戦略家として名高く、「ドラッガーの再来」と称賛されている人物だとか。確かに、読んでいると「この本は売れるだろうな〜」と思わせるビジネスの奥義の語り口など、海千山千のプロフェッショナル臭がプンプンする。


この本が語るところの面白い部分は、「世の中に登場する商品はたいてい良いもの」だけれど「それなのに、人は買って(使って)くれない」というものすごく身も蓋もない問題にたいするケーススタディが全てだ。この系統のビジネス書は極論してしまえば「調査が大事」「常に改善していこう」の2つだと思う。それをいろいろなエピソードを交えて面白く論じることができるかどうかが鍵。この本の場合、カーシェアリング事業からコンサートホールまで、結構具体的に試行錯誤の過程が描かれていて、それが面白かった。あと、成功物語を読むことで、テンションが上がるという利点もある。


スライウォツキーが提唱するディマンド(ハッスルなど)という概念が目新しいものかというと、別にそうではないかなぁと思う。経営戦略家は理論よりも実践を重視するのか。でも、だからといって日本では役に立たないかというと、そうではなくて、「調査」と「改善」の2つが正しく行われれば、自ずと歩むべき道が見えてくるというのは説得力があった。また、解決策についてもある程度分類しているので、判断の助けにもなる。基本的にこの本はサービス満点で、さらに作者の語り口が秘められた奥義を開陳するという体なので、この一冊で経営の全てが分かったきにさせてくれるのも気持ちよい。


個人的には、オーケストラのコンサート・ホールの関係者が、売上げを伸ばすためにどういう試みをしていったかのエピソードが面白かった。私自身、似たような仕事をしていて、問題に直面しているからだけれど、需要を満たすためにバリエーションを増やしていくという作戦は、なるほどと思う部分がある。問題はマンパワーや熱意がどれだけ続くかだろうけれど、不断の努力は重要だし、オーケストラのコンサートのような若い人たちがあまり来なさそうなコンテンツでも、頑張れば売上げは伸びる(そして社会が良い方向に変わる)ということに興奮させられた。


ケーススタディを気軽に学べるという点で、読んでいて利益になる部分が多い。あと、この考えを、自分が働いている職場に置き換えてみるのも楽しい。