『江戸の小判ゲーム』



江戸時代の金融政策を面白く解説した本。


江戸時代の歴史研究はかなり進展していて、僕が子供の頃のイメージとは180度違った実像が語られている。この本も、そういう流れに沿った一冊で、江戸時代の金融政策という、「そんなのあったの?」みたいなところから、現代に通じる諸問題に、幕府の人々がどう対処したかが楽しく読めるようになっている。


著者は山室恭子さん。『中世のなかに生まれた近世』や『黄門さまと犬公方』などの著者で、戦国時代から江戸時代にかけての研究を、一般にも分かりやすく伝えるという才能があると思う。


天保の改革を主導した松平定信たちが、現代的な「チーム」として生き生きと描かれている前半が特に面白かった。天保の改革といえば、派手な生活を締め付ける……みたいな側面だけで語られているけれども、ちゃんと政策を立案して実行に移し、結果を出すために苦心しているんだなぁと、昔のことだけれど親近感を覚えてしまった。政策の失敗の理由をゲーム理論で解説するという試みも面白い。


後半は、題名にあるように小判の流通についての話になるのだけれども、正直なところ散漫な感じがぬぐえなかった。これは前半が面白すぎたという側面もあるのだと思う。前半部分を二倍くらいにして、松平定信と彼のブレーンたちを中心に、どのように政策を実行していったか、その姿を丁寧に描いたほうが良かった。松平定信や久世広民らが、どのような人物だったのかをもう少し詳しく書いてくれても良かったと思う。


江戸時代の「名と実」を使い分けて、金を巡らせようと努力する人々の姿は、今も昔も変わらない。さらに言えば、昔の人々でさえここまで努力しているのに、今の我々は……と思う部分も多々あった。