『団地少女』

文学フリマで購入。「団地と少女」をテーマにしたアンソロジーで、ヒガヒサ@久地加夜子さんが出している。


団地×少女アンソロジー「団地少女」

団地×少女アンソロジー「団地少女」


amazonで購入できるのがビックリ(^_^;)


団地という、高度経済成長下で登場した居住空間は、当時は時代の最先端であり憧れでもあったけれども、今では古臭くてひび割れていて、朽ちていくのを待つのみな建物というイメージがある。「老い」を背負った象徴である団地と、「若さ」を背負った象徴である少女の組み合わせは、アンソロジーとするときに想像の翼が広がる面白い題材でないかと思う。それを的確に表現できている表紙が良い。団地の写真に、手を横に広げた少女の絵。この表紙で購入を決めた人も多いのではないかなと。


一方、「団地」と「少女」という二つの名前が持つイメージは、かなり固定化されているのかもしれないと思った。日本は広いので、別に団地が「かつて」のように語られる場所ではないところもあるし、最近では都心部の家賃が高いので公団住宅の倍率は相当高いと聞く。少女に到っては、少女的なるもの、少女性は個人に迫れば迫るほど希薄になっていって、ただ年齢区分だけのものになってしまう。そういう一様ではない実態と、一様になっていくイメージの狭間で、物語が作られるときには作者のバランス感覚が求められると思う。


それはそれとして、ホラー的要素の作品があまりなく、百合的要素の作品が揃っているのは意外だった。世の中の流れを垣間見たと思ったり。僕は百合小説は好きで、この傾向は嬉しいなと思う。「団地妻」だとセックスとか爛れた関係がメインになるけれども、「団地少女」だったら、それよりももっとソフトな精神的な繋がりを重視したものになるから、百合小説が多いのかもしれない。アンソロジーの中で3編選ぶとするなら『年上の人』『県営あぽろ団地でノクターンが聴こえたら?』『千の仔』で、3つとも百合小説だったりする。


【作品感想】
茶葉 『年上の人』
団地を舞台に、年齢差から疎遠になっていく少女二人の成長が描かれる。幼い頃の出来事をひきずりながら、真意を確かめて結ばれる二人の少女、という話の流れが良くできている。団地という舞台背景は、たぶん現実の小さくまとまった日本社会(息苦しさや画一性などなど)を象徴させていて、少女同士の恋愛を妨げる檻としての役割があるのだと思う。告白が水族館だった理由も、檻を出る必要があったからだと考えられる。団地生活から卒業して、新しい人生をはじめるというラストに爽やかな印象を覚えるのは、百合小説という体裁だけでなく、そういう図式的な構造の上に、少女の心の成長が描かれているからだと思う。


夕波あす 『県営あぽろ団地でノクターンが聴こえたら?』
文章的なレベルでは、そうは描かれていないのだけれど、なんというかイメージ的にエロい話だな〜と思って、それが好きな一編。「元気な少女が、やる気満々のお姉様にはまってしまう話」が好きなのかもしれない。『年上の人』では団地という舞台設定は、二人の少女に距離を作る檻として描かれていたけれども、今作の場合は真逆の「愛の巣としての団地」が描かれていると思う。コンクリートで固められた「団地」という建物の巣穴性というか、色んな人をも内包してしまう特質が良く描けている。でも、キャラ萌えできる百合小説はそれだけで強いよね〜というのが僕の感想の全てだ。


ギルマン高家あさひ 『千の仔』
団地的な宇宙船というトリッキーな舞台でも、ちゃんと設定が出来ていて、さらにそれが百合小説としての必然性にも繋がっているという「上手い!」と唸った作品。物語は普通の話のようにはじまって、だんだんSF的な要素が深まっていくという書き方も良かった。この仕掛けが面白くて、世界の広がりと変貌をもっと描写しても良かったのではと思う。あと、少女二人の擦れ違いと、恋愛感情の再確認という流れは、百合小説の醍醐味だな〜と。


というわけで、気に入った作品3作の感想を書いてみました。こういう面白い試みは同人誌ならではのもので、楽しく読むことができた。シリーズ化しても面白いのではないかな〜と思う。