2012年に読んだネット小説ランキング!

俺より上手い書き手はどこだ!


というテンションで、去年はツイッター上で感想募集をしまくりまして、恐らくは100作品以上読んだのではないかな〜と思うのです。去年は、前半が暇なオッサンだったので、なんでもできる状態にあったのですよね。というわけで、ネット小説界隈では古株の私ではありますが、結構、世の中の新しい空気を感じて幸せだな〜と思ったしだいで、今ここにネット小説のランキングなんかを発表したいと思います!


総評として、ネット小説も世の中の流れにそっているなぁと感じる部分と、書き手個人が本当に書きたいことを書いていると感じる部分の両方がありました。現在のライトノベルを読んで小説を書こうと思っている若い人たちの作品は、やはり今っぽい雰囲気がありありと感じられて、現在の小説シーンを知ることにも繋がりましたし、市場ではまず出てこないであろうタイプの傑作なんかも読むことができました。また、ネット小説だけでなく、去年は文学フリマに(九州から)殴り込みに行きまして、そこで沢山の小説を買わせていただきました。ああいうイベントに初参加だったのですが、空気が良いね! 空気が! という。売られている本もレベルが高くてオッサンビックリです。

というわけで、ランキングは10位からいきます! ハッキリ言って、金払っても良いレベルの作品ばかりです! あと、『小説家になろう』がほとんどなのは、感想募集の依頼がほぼ『小説家になろう』からだったので(^_^;)


10位:スクミーズ 著者:緑乃帝國
http://p.booklog.jp/book/37383
出オチ! と思ったら、意外にハードな展開でグイグイと読ませる読ませる。どこまでが冗談で、どこまでが本気なのか分からない作風(本人からすれば全部本気だろうけれど)は、はじめて読んだら口をあんぐり開けて「なんだこれ?」と思うこと必至。でも、そこを乗り越えれば、作者の世界観にどこまでも嵌り込むことができる。


9位:Over Line〜君と出会うために 著者:さつきひろ
http://ncode.syosetu.com/n9438y/
夢を見させてくれる女性視点の恋愛小説としては、かなりハイレベル。オッサンはこういうのを読むと青春のどす黒さにやさぐれてしまうのですが、ここまで物語を面白く処理してくれると、身悶えして登場人物を応援したくなるというものです。登場人物が一人一人に血が通っているのも、普通の一般人とアイドルという「ありえない」設定の恋愛を、ぎりぎりのところで成立させていて、無茶な部分も押し通るパワーになっていると感じました。あと、ちゃんと手順を踏んでいるところも好ポイント。 


8位:土塊故郷行 著者:みなきゆきなみ
http://ncode.syosetu.com/n0467z/
ちょっと土着の臭いがするファンタジー小説。ものすごく特色のある設定が、単純に「凝った世界観」の方向に向かないのは、作者さんの才能ではないか。僕のイメージでは東南アジアっぽいな〜と感じて、そういうファンタジーって今までにない、食べ物で言えば「ちょっと風変わりな香辛料の料理で味に目覚める」系の作品だと思った。物語の基本形である「行って、帰る」が忠実に守られているところも良い。電撃大賞の2次選考落選という話なんだけれど、もう少し評価してあげてもいいんじゃないかなぁ。


7位:そのたま! その銃弾が、確かにセカイを変えたのだ 著者:犬吠埼一介
http://ncode.syosetu.com/n9443z/
もう少し頑張れば、中南米系の文学者(リョサとか)に肩を並べるんじゃないかな〜と思う作品でした。今の日本で「港湾労働組合」なんて言葉が出てくる小説が書けるだけの人材がいたというのが嬉しい。物語はハードボイルドで、こういうポリティカルな内容は、意外に需要があるのではないかな〜と思うのです。スパイと過激派と男と女、という必要なパースが全て揃って、物語もタフに展開していき、着地も綺麗という作品。もっと長編小説でも読んでみたいなと感じさせるものでした。


6位:純粋扉と夏みかん 著者:柿原 凛
http://ncode.syosetu.com/n4191i/
夏! 四国! という雰囲気がとても良く描けていて、一気に読んでホッコリしてしまった作品です。土地土地の方言が言葉に織り交ぜられていると、読み心地に特有のリズムが加わって面白いなぁと思いました。恋愛の不器用さや擦れ違いが綺麗に描かれていて、誰にでもオススメできる作品です。


5位:紅蓮の鬼ノ壱 於仁丸出奔 著者:あんのーん
http://ncode.syosetu.com/n2496e/
劇画タッチの時代劇の漫画とかを読むと、かなりエッチな描写があったりしてドキドキするのですが、それが作品の完成度に寄与している部分が多々あると思うのです。この作品は性描写も残虐描写も包み隠さず表現しているのですが、それが戦国時代という荒んだ世の中のありかたに繋がっていて上手い。エロとグロだけでない展開のスピード感(第一部ですでに大事が起きているというのが良い)と、キャラクターの魅力の両方が十二分に発揮できている。時代ものの小説の中では、今年読んだ一番の小説かもしれない。


4位:純潔のフリージア 著者:ひられん
(もう読めないみたいです)
戦後の日本で特殊な教育を受けている少年少女と、彼らを教える教師、そして兵器開発の大企業が織りなすドラマ。謎が謎を呼ぶ前半から、急に物語がバトル方面に行って、あの憎らしい登場人物の過去が示されたときに感じる「ああ、この人も人間なんだな〜」という読み応えが最高だった。やっぱり、ドラマなんだから人間が描けてなんぼだよね〜という思いを強くした。それほどの良作。でも、もう読めないのか……


3位:ミッドナイトウルブス 著者:石田昌行
http://ncode.syosetu.com/n1151bg/
「走り屋」という僕のまっったく知らない世界の話なんですが、それでも物語の力に引き込まれるというか、レースを描いた小説でここまで読ませるものは希有だと思いました。過去の栄光と因縁、次世代の若い才能、失われた愛と、新しく芽生える恋がこれでもかという具合に描かれていて、一気に読んで「お腹いっぱい!」と思いました。どこかの自動車雑誌に連載されていてもおかしくないハイレベルな内容。知らないけれども読んでいて面白いというのは、書き手が持つべき重要な才能なんだな〜と痛感しました。『小説家になろう』はこの小説を大切にするべきだと思うけれどね。


2位:日雇いクエスト 著者:蝉川夏哉/逢坂十七年蝉
http://ncode.syosetu.com/n4944w/
もう、設定の一つ一つが好きすぎて困る。題名からは想像できない硬派な作品。読んでいて「あー分かるわー分かるわー」と納得していくというか、こういう小説を僕も書くべきだったのに、先を越された悔しさというか、そういうのを一々感じて、それでも面白いという俺得作品でした。老人が主人公という意表をついたところ以外は、本当に世界観を積み上げていくタイプのファンタジー小説で、素晴らしいとしか言いようがない。『小説家になろう』で感想募集をして良かったと一番思った作品でもあります。


1位:青の住人 著者:南河紅狼
http://ncode.syosetu.com/n9815w/
小説家になろう』でこれ以上の作品はないかもしれない、と思った小説。個人的に海が出てくる小説が好き、ということを割引いても、堂々の1位であることは揺るがない。最初、イルカ視点で物語が進むという度肝を抜く導入部分から、水没した世界の中で、還る場所を求める登場人物の物語には綺麗にノックアウトさせられました。SFとしての風格も素晴らしいものがある。読んでいて、波のたゆたう海の底にいるかのような感覚になれる作品です。


というところでしょうか。上位3作は、ツイッターでも常々書いていたので、あまり驚きはないかもしれません。


あと、ワースト作品とかはないのですが、1年間大量の小説を読んでいて思ったのは「最初に人を殺せ!」というミステリーの鉄則は他にも当て嵌まるな〜ということです。別に人が死ぬ作品は良いと言ってるわけではなく、最初の第1章で物語が派手にならない小説は、その後も鳴かず飛ばずだな〜という傾向を思いました。特に学園ドラマの場合は。どんな漫画でも連載一作目はパンチの効いた内容にするのに、小説になると様子見的な大人しい導入にしてしまう傾向があるようで、そこを打破してほしいと感じた作品が沢山ありました。


もう一つだけ、小説は完成したところで読まないと、面白いも面白くないもないな〜とも感じました。途中だけれど面白い、という作品はほとんどなかった。ランキングにはそういう作品もありますが、それは希有な例で、長い話でも一つ一つまとまりがあるストーリーと、まとまりがないストーリーとでは、やはり出来に差がでるなと。さっさと書き上げて、新しいのを書けばいいのに、と思った作品も大量にあります。


そんなわけで! 今年も感想募集をします!


俺より上手い書き手はどこだ!


の心意気で!