『LOOPER/ルーパー』

映画館で鑑賞。



【ストーリー】
未来から送られてくる人物を殺す殺し屋(ルーパー)が、未来の自分が過去に送られてきたことから、大きなトラブルに巻き込まれる。
第一幕:オープニング〜未来のジョーにノックアウトされるまで
第二幕:部屋に帰る〜血塗れのシドを抱くまで
第三幕:未来のジョーが、エイブのアジトを襲撃〜ラストまで


【見所】
語り口の上手さ、物語の複雑さを難しくさせない手腕。
あと、個人的には「そんなにビッグバジェットではない」感じが良かった。


【感想】
映画批評家町山智浩さんが、2012年に観た映画の1位に挙げていたので、こいつは観てみないと! と思ったわけではなく、単に『96時間リベンジ』と『テッド』の両方とも時間が合わなかったので観たという感じ。結局、この選択はベストだったのではないかな〜と思うほど、現在最先端の「ハリウッドのB級SF」が堪能できた映画だった。今はCGの技術がかなり進歩していて、こういう一昔前なら超大作にもなっただろうプロットが、そこそこの予算(3000万ドル)でできる世の中になったのだなぁと。


物語的には「変則的なターミネーター」というか、「未来から送られてくるのがシュワちゃんでなく、ブルース・ウィリスなら?」で脚本ができあがったような作品だった。監督はライアン・ジョンソンという人で、この人の映画を観るのは今回がはじめて。wikiで観てみると、まだそんなに監督している映画がないけれども、これから注目を浴びると思う。主演は『ダークナイトライジング』にも出てきたジョセフ・ゴードン=レヴィットと、ブルース・ウィリス。この映画はブルース・ウィリスがキャスティングできたことが一番の勝因のような気がする。煮ても焼いても食えない感じがとっても良かった。


一言で要約するのがかなり難しいSF作品だけれども、手際よく処理する語り口の上手さで、観客に「難しい」と感じさせないことに成功している。第一幕で世界観の説明をねっとりして、第二幕でトラブルに巻き込まれる主人公をねっとり描いて、第三幕で決着! という明快な構造があるからこそ、物語の難解になりそうなところが回避できている。特に第一幕は世界観の説明をかなりスタイリッシュに描いていて、「世界観の説明」につきものの退屈さが全然ないところも良かった。ブルース・ウィリスはスクリーンに映るだけで「なにかやってくれそう」な感じが漂うよね。この辺りはキャリアの豊富さが演技力にも繋がっていると思う。


そして、ちょっとした描写が冴えているのもいい。盗みを働いた人間を簡単に撃ち殺す社会とか、ちょっとだけ未来なハイテク描写とか、ルーパーの派手で空虚な生活とか、サラのエア喫煙とか。この辺りの語り口って、『トゥモローワールド』とかの影響を受けているのかな……と感じる部分もあった。負け組だらけの社会(で、極一部だけが超リッチ)という世界観は、オキュパイド・ウォールストリートとかにも影響を受けているのかなと思う。


ストーリー的に気になったのは「未来で人を殺さずに、過去に人を送って殺す」という物語の根幹が、あんまり説得力がないということ。未来では犯罪王レインメーカーが幅を利かせている世界なのに、なんで過去にまで遡って人を殺す必要があるのかと。実際、ブルース・ウィリスの奥さんは撃ち殺されているわけだし。あと、やっぱりターミネーター的な「レインメーカーが(自分が)改心するのを防ぐために、未来からどんどん人を送り込む」というシークエンスは必要なのでは? エイブという未来人もいるのに、色々ともったいないな〜と。ここは、ルーパーがシドと接触したことで、未来のディストピア感が一層高まるという描写が入れば、もっと良かったと思う。


でも、全体的には良く出来た映画で、観たいものを全部観たという気にさせられた。マシンガンを持つブルース・ウィリスの堂に入った姿に、「あ、敵が可哀想」と思ったり。銃器描写はラッパ銃を含めてかなり力を入れているけれども、この世界にライフルってないのか! と思う部分が多々あった。あと、個人的には出てくる女性が全員美人だったところが高評価。サラの「オナニーしようか、ジョーを呼ぼうか迷う」場面とか、ちょっとムラッときてしまいました。


物語のオチが、「負の連鎖を断ち切る」というのは凄かった。一人の生き死にが世界の趨勢に関わる。この話って、(日本では流行らなくなった)セカイ系を、ハリウッドが超洗練したかたちで語った作品でもある……と思う。途中までなんの意味があるのか分からなかった超能力が、終盤では大きな意味を持つし。色んな意味で勉強になった作品でした。