『良い戦略・悪い戦略』

ふと立ち寄った本屋で購入。こういう良質な本との出会いがあるから、本屋は侮れないんだよなぁ(^_^;)


良い戦略、悪い戦略

良い戦略、悪い戦略


著者のリチャード・P・ルメルトはコンサルティング会社の経営者で、今まで数多くの大企業の戦略についてアドバイスしたり、大学で戦略論を講義している人らしい。戦略、というと戦争用語だけれど、現在ではビジネスで使われることの多い言葉で、この本もビジネスでの「良い戦略」と「悪い戦略」を紹介して、良い戦略に共通する三つの要素(本ではカーネルと呼んでいる)の重要性を説いている。


まあ、最近読んだ本の中では、『繁栄 明日を切り開くための人類10万年史』と『マネーボール』に匹敵するくらい夢中になって読んだ本だった。僕達が物知り顔で語る「戦略」、それは果たして「良い戦略」なのだろうか? それとも愚にも付かない「悪い戦略」なのだろうか? と考え込んでしまうほどだ。本では古代の戦争から、スターバックスの誕生と成功物語まで縦横に論じているけれども、僕が働いていて身近に感じる「ままならなさ」は、確かにそこに「戦略」というものが存在せず、存在していたにしても「悪い戦略」になっていたからなのだなぁと実感した。


ちょっと触りだけ紹介すると、「良い戦略」には共通してカーネル(核)が存在していて、それは「診断」「基本方針」「行動」の三点が強固であることを言うらしい。これだけ読むと、「なんのこっちゃ」か「そんなの当然」と思うかもしれないけれども、本書を読み進める内に、この三つが揃うことはかなり難しく、決意や意志や運などが関わってくることが分かる。「診断」は孫子の兵法で言うところの、「己を知り、敵を知る」という部分。「基本方針」は敵(障害)を倒すための方法の選択。「行動」は「基本方針」で定めた方法を実行に移すこと……というふうになる。これ、現実ではどれか一つを決めるだけで「戦略」と名付けたり、曖昧模糊な理想論や精神論を「戦略」と考える人がアメリカにも沢山いるらしい。だからこそ、著者のようなコンサルタントが大活躍するのだろうけれど。


最近、ツイッターで『橋下市長vs文楽』のことをツイートしたら、その反応が返ってきて色々と勉強になったけれども、文楽に関わる人たちにはぜひ『良い戦略、悪い戦略』を読んでほしいと思う。なんというか、「伝統芸能の継承は大切」というのは非常に理解できることだし、それを大鉈を振るって補助金をカットしようとする橋下市長については乱暴だと思うけれども、文楽側はなにを求めて橋下市長と対峙しているのか、それが全く分からない。「大阪市から補助金をもらわなければ文楽は死んでしまうのか?」とか、「そもそも文楽は芸能(興行)としてどうなのか?」とか、さらには「権力者と戦って勝算はあるのか?」とか、「なにをもってこの戦いは文楽の勝ちになるのか?」とか、全然分からない。関係者のツイートを読んでも「文楽という死にゆく文化に対する保護の重要性」くらいしか伝わらないのは問題があると思う。


『良い戦略、悪い戦略』に書かれていることに従えば、文楽側は自身の問題を洗いざらい検証して現状把握をするべきだし、橋下市長を敵に回すことの是非から考える必要がある。『橋下市長vs文楽』というのは、どうも「ハシズム!」と言ってれば喜ぶ層が、文楽を危険な政治闘争の場に乗っけている面もあるように感じられる(もちろん、橋下市長が挑発しているわけだけれども)し、この圧倒的不利な戦いは本当に必要なのだろうか? と僕なんかは思ったりもする。橋下市長の慈悲で補助金もらえれば、それで満足なのだろうか? そんなことはありえないだけに、玉砕覚悟のバッシングに文楽を駆り立てるよりも、生き残りだけを主眼に置けば、もっと巧妙に立ち回ることもできると思うのだけれど。


というわけで、『良い戦略、悪い戦略』は現実問題に対処する思考を鍛える意味においても、かなり使える本だと思う。