『杉下右京の冒険』


杉下右京の冒険

杉下右京の冒険


『相棒』のオリジナルノベライズ版。杉下右京が三宅島や韓国で事件を解決する。


僕は(テレビドラマはコンプリートしていないのに)『相棒』のノベライズは全冊読んでいて、その出来の良さは単なる小説版の枠にとどまらないものになっていると思う。作者は碇卯人という人で、「テレビドラマのノベライズ」という表現方法が違う創作物の特性を良く分かっている作家さんだ。ちゃんと、水谷豊が演じる杉下右京が、小説の中でも動き回っているように描かれている。


これは、小説でキャラ作りがされていないからだ。ちょっと意外に思われるかもしれないけれど、ビジュアル的にキャラクターが出来上がってしまえば、それを文章のなかであれこれ表現しようとするのは、かえってノイズになったりする。『相棒』は息の長いドラマシリーズで、もう杉下右京というキャラクターがどう動くかまで読者は把握しているので、あとは物語を転がすだけで楽しむことができるのだ。その代わり、会話や舞台の描写はしっかりとしているし、物語もテンポ良く進んでいく。


小説版を読んでいて思うのは、杉下右京の物語と小説との相性の良さだ。彼の並外れた観察眼と知識は、テレビドラマで演出するよりも小説で表現したほうが、受け手にも伝わりやすい。特に、韓国を舞台にした『野鳥とUFO』の話は、それが十分に発揮されている物語だと思った。