『テルマエ・ロマエ』

ヤマザキマリ原作。阿部寛主演。


テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)


【ストーリー】
現代日本にタイムスリップできるようになった古代ローマの浴場専門の設計技師が、祖国の危機を救う。
第一幕:オープニング〜妻とのケンカまで
第二幕:ハドリアヌス帝登場〜雨の中でのルシウスの決意まで
第三幕:ピウスへの直訴〜ラストまで
漫画でいうところの1巻〜2巻までを纏めている。原作漫画の勢いが3巻以降なくなってしまうので、これは懸命な判断だったか。


【見所】
日本映画の枠を超えたスケール感。(外国のテレビドラマの使い回しとは言っても)古代ローマのセットは圧巻。イタリアの映画撮影所チネチッタを使っているので、日本映画にありがちな人数的なスケールの小ささが解消されている。それだけでも見る価値はあるかと。あと、立っているだけでも面白い阿部寛と、ジジイの画。ワニ。


【感想】
最初、映画化と聞いたときには「テルマエ・ロマエ」が連載されると聞いたとき以上にどうするのよ?という気持ちでいっぱいだったけれども、出来上がってみたのを鑑賞すると、かなり明確な勝算があったからこその映画化だったのだなぁと気付かされた。おそらく、『ローマ』という200億かけた海外ドラマのロケセットを取り壊す前に使い回すことができたのが一番の勝因であるように思われる。


というような裏話を聞くと、「自力じゃないじゃん」と思われるかもしれないけれども、こういう幸運を見計らって撮影を行うことも映画作りには必要なわけで、プロデューサーの力量が発揮された映画としては近年稀に見る作品だと思う。これがなければ目も当てられない作品になっただけに。


物語のキモは、立っているだけでも面白い阿部寛が全裸で驚くという、分かりやすいギャグを堪能するものになっていて、これはかなり成功している。特に、現代パートでの文明に驚く様子と、老人と一緒の場面はかなり笑える。映画化の際に、かなりテルマエ・ロマエの面白い部分を研究している。あと、竹内力の迫力はやっぱり相当なものがあるなぁと。エンドクレジットの一人で泳ぐ竹内力の姿に爆笑。あと、映画独自の演出であるオペラ歌手も変化をつけていて面白かった。でも、オンドル風呂を建設するときに、老人たちがタイムスリップするのにも、彼がなんらかの失敗したからという理由がほしかったかな?


難点は脚本。これはたぶん、チネチッタのロケセットの活用期間があったために、十分な練り込みができなかったのではないかなぁと思う。原作の構造は一話完結で、ルシウスが現代日本にタイムスリップして、そこで学んだものを古代ローマにフィードバックするというものだけに、映画化にあたってそれをどう一連のドラマにするかという問題が出てくる。そのための上戸彩であったり、ケイオニウスの悪役化だったと思うが、あまり効果的には作用していないと思う。


一番の問題点はテンポが悪いことに尽きる。ルシウスのモノローグで進む展開はいいけれども、もっとエピソードを手際良くポンポンと展開させないと、コメディの笑どころが間延びするように思う。せっかく面白い題材なのに、映画館ではあまり笑い声が聞こえてこなかったし。個人的には原作の面白かったセリフや展開がなかったのはどうかと思う。特に家庭風呂の扱いは、そこからハドリアヌス帝との関係ができるだけに残念な出来だった。


ケイオニウスの悪人設定は原作ファンにとっては微妙だと思う。特にタイムパラドックス的な話は原作では一つも出ていないのに、そちらの方向に話を持っていくのか……とちょっと残念だった。


個人的にはツッコミを入れたい部分がたくさんあるものの、基本的には笑って許せる作品だったと思う。漫画原作の映画としては、一定の水準に達している作品で、やればできるじゃないか、というのが率直な感想。このままプログラムピクチャー化しても面白そうだと思ったけれど、さすがにチネチッタのロケセットがないと、このクオリティを出すのは難しそうだ。