『漫画貧乏』

漫画貧乏

漫画貧乏


どこまで本当のことなのか、という問題はあるにしても面白かった。


海猿』『ブラックジャックによろしく』などで知られる佐藤秀峰さんによるエッセイ。内容自体はツイッターやWebで語られていることを、再度まとめたような感じ。語り口は面白いし、リアルな「バクマン」漫画も読めるし、なかなか価値のある本だと思う。


帯には「10年後も漫画はあるのだろうか?」とあるように、赤字体質の漫画雑誌の状況、出版社との契約(おもに原稿料)の不備、Web漫画立ち上げのあれこれの理想と現実……などなどが切々と語られている。特に、原稿料については大手出版社であっても口約束と搾取の構造で成り立っているようで、これは漫画という出版社の主力商品に対する姿勢としても恐ろしいことだと思った。ぺーぺーの三流漫画家ならともかく、それなりに名のあるタイトルを持つ漫画家であるなら、原稿一枚にかかる原価を計算して原稿料を出してあげるべきだよねぇ。それがなっていなかったという不思議。


要するに、ここに書かれていることは「破綻したビジネスモデルの物語」なわけで、今は例えばワンピースが大人気とかで表面上は豊かに見えても、実は空洞化が広がっているのだということが良く分かる。でも、じゃあ新しいビジネスモデルを構築しようとしても、それを一から作り上げるには漫画家一人の力量では如何ともしがたい部分があるみたいだ。新しいビジネスモデル、というのは死屍累々の上に立つ一本の棒のようなものだから、現状がダメでも誰かが新しいアイデアを生み出すかもしれない。というわけで、進んで人柱になろうという佐藤秀峰さんという奇特な人を、僕たちはみんなで応援してあげないといけないと思うんだよねぇ。


将来的にはオタキングこと岡田斗司夫がやっているような、個人の企業化みたいな形態が漫画家を支えていくような気がする。ファンが毎年千円でも1万円でも払って、その金で活動するような感じ。そうなるともはや漫画家ではいられないかもしれないけれど、一つの在り方だとは思う。とにかく日本の今の状況は、漫画業界に限らず「焼き畑」的な手法が罷り通っている。今が売れればいい、今が利益でていればいい、将来のことは知らない、というような状況。これも一種のバブルではないだろうか。もっと持続可能なシステムを作ることこそ求められているのに、誰もそこに手をつけたがらない。


この本を読んでみると、日本のクリエイターが置かれている立場がいかに過酷かが良く分かる。大手でさえ売れっ子漫画家にこういう態度に出るのだから、pixivに投稿している絵師なんて十把一絡げで使い潰そうとするのも当たり前のような気がする。これまでは市場そのものが右肩上がりで問題を叩き潰すことができたけれど、市場が右肩下がりになると問題を放置することもできなくなるだろう。でも、今のシステムに乗るのなら搾取の構図から逃れられないだろうけれど、もっと広い視野に立てば、別にこのシステムに乗らなくても自由に活動できるし、それなりに稼げるようになるとは思う。