『全集 日本の歴史 12 開国への道』

開国への道 (全集 日本の歴史 12)

開国への道 (全集 日本の歴史 12)

おそらく、現時点で最も信頼のおける(最近の研究を元にした)歴史シリーズ。『全集 日本の歴史』も12巻になって、いよいよ江戸時代末期の対外関係と開国について書かれる……のだけれど、面白いのは後半の庶民剣士をテーマにした章だった。
江戸時代は唯一の暴力機構である『士』が『農工商』を支配した時代、という単純な図式は崩れつつある。徳川幕府は世論に左右され、庶民が剣術に励み、国政に参与したなど、暴力国家としての側面よりも教諭国家としての側面がより強調されている。面白いのは江戸末期の名だたる剣術家のほどんどが武士階級の出ではなかったということ。新撰組の近藤や土方が農民上がりだったというのは割と有名だが、剣術が武士に限定されたものではなく、むしろ庶民のほうが剣術修行が盛んだったというデータは江戸時代のイメージを覆すものだと思う。
対外関係については、田沼意次の『北海道450万石開墾計画』が興味深かった。田沼意次の失脚が十年遅れていれば、日本の歴史は大きく変わっていたかもしれない。もしかしたら百年早く明治維新があったかもしれないし、北辺の支配圏を巡る徳川幕府軍とコサック騎兵との戦いの結果、アラスカ辺りまでが『日本の固有の領土』になっていた可能性だってあったかもしれない(逆に北海道がロシアの領土になっていた可能性もある)。