『スノーピアサー』

映画館で鑑賞。パンフレットも購入。


【ストーリー】
すべてが凍結した世界で唯一走る列車版ノアの方舟『スノーピアサー』で、最後尾の虐げられた人々が反乱を起こす。



【見所】
涙ぐましい貧乏人描写。
むかつく金持ち描写。
そして、笑える不条理描写。


【感想】
85点!


面白い映画だった〜というのが一番の感想。


フランスのバンドデシネが原作の映画を、韓国映画界の巨匠と言ってもいいポン・ジュノが監督・脚本した異色作。クリス・エヴァンスとかエド・ハリスが出てくるので、てっきりハリウッド資本の映画かと思ったら、制作がパク・チャヌクだし、企画自体がポン・ジュノから出ているみたい。韓国は国内シュアが小さいので、最初から世界戦略を練らないといけない環境にあるらしく、この『スノーピアサー』はその中でも海外戦略を重視している作品のように思える。ほとんど英語だしね。


地球温暖化対策で、冷却化する物質を空に撒いたら氷河期になったという、やぶ蛇な近未来で、世界を一年掛けて一周する列車スノーピアサーは現代のノアの方舟として走り続けていた……という世界観からして、心躍るものがある。でも、実際のところ、この「列車版ノアの方舟」というアイデアは、かなり実写にする上で難しいものだったと思う。列車という空間をいくらでも巨大に描くこともできただろうけれど、そこをギリギリ現実的なサイズに収めつつ、山あり谷ありなストーリー展開ができるようにするには、かなり周到な計算が必要だったはず。冷静に考えれば、あれだけの設備で18年も走りつづけるというのは、無理な気もするけれど。


ストーリーのほとんどは、「弱者が立ち上がり、強者を倒すために前に進む」ということだけに費やされる。列車という舞台設定が、「格差・階級」をどうしても連想させるものになっていて、そこが映画的に十分表現できるかが勝負の分かれ目と言える。で、この点に関しては、ポン・ジュノが監督と脚本まで担当しているので、本当に上手いとしか言いようがない。とにかく、最後尾車両に住む貧乏人乗客たちと、最前列に住む金持ち乗客たちの対比が上手い。ソン・ガンホが煙草を吸うときに、煙をみんなで吸い込む描写は最高だった。


一方で、むかつく金持ち描写も良くて、それはほとんどメイソン総理を演じたティルダ・スウィントンが背負っている。怪演といってもいいほど印象強いキャラで、『スノーピアサー』の人物造形として漫画っぽい部分も担っている。このキャラクターがいるからこそ、キャラクターごとの行動原理や「実はこうでした」な真相も、リアリティのハードルを低く観ることができるようになっている。あと、小学校のむかつくクソガキと先生のパッパラパーぶりも良かった。オチを考えると、あの子供たちも全員死ぬんだよねー。金持ち死すべしな展開は実にスカッと爽やかな気持ちにさせてくれる。


ラスボスであるエド・ハリスの、「色々説得力あることを言ってるけれど、やってることは児童労働」という問答無用な悪の描写も良かった。やっちゃいかんだろうと、一瞬で正気に戻る主人公(笑)とか。あれ、子供やプロテイン作りの男とか、ロボトミー手術を受けているという裏設定があったのでは?


個人的に良かったところは、斧軍団との激突のシークエンス。扉が開いてからの、列車を埋め尽くす斧軍団→(なぜか)鯰の腹を切り裂く斧軍団→激突→いきなり新年のカウントダウン→メイソン総理登場→暗闇の戦い→聖火ランナーの登場から大逆転……の展開は超テンションが上がる。ここでボルテージがMAXになってしまって、それ以降の展開がちょっとダレていると感じたくらい。でも、この後も「金持ち車両」に移って、寿司を食べたり、小学校のクソガキに憤慨したりと、見せ場は多い。


逆に、ちょっとなぁと思ったのは、金持ち車両の退廃的な描写。バーくらいまでは良かったけれど、クラブから阿片窟みたいな場所にいたって最前列のエンジンルームに到着ってどうなんだと。あそこにいる人々も無意味に多く感じられるし。最後尾の人々よりも最前列の人々のほうが数が多そうというのも、ちょっとだけ気になった。あと、クロノールで扉を爆発して外に脱出って、別に先頭に行かなくても(扉じゃなくても)できるよね……と思ったり。ソン・ガンホは扉を爆破して外に出るつもりだったけれど、走行途中の列車から飛び出るのは無理じゃないかなぁと。


最後に、この内容を日本映画で作ることができるのか、ということを考えさせられた。アニメ映画であれば、描けるはずだけれど、実写映画では不可能じゃないか。英語と韓国語が交差する描写を最後まで貫く、演出の確かさと、脚本の妙、そして王道のエンターテイメントを堂々と世に出す監督力のどれをとっても、日本映画と韓国映画の差は開いたなぁと実感した。国内市場があるということは、クリエイティブに関してプラスに働くことが多いけれど、一方で「ぬるま湯」的な状況も生み出すのでは? と思ったり。



パンフレットは、もう少し列車を意識したルックにするとか、いろいろとやりようがあったような気がする。内容的にはギリギリ及第点といった感じか。ここは、映画のほうは最高だったから、パンフレットも力を入れてほしかった。原作のバンドデシネも読んでみたいと思う。