『アメリカン・ハッスル』

映画館で鑑賞。パンフレットを購入。


【ストーリー】
FBIが詐欺師を雇って、悪徳政治家の収賄現場を撮影した「アブキャズム事件」を脚色して映画化。



【見所】
70年代テイスト。
先の読めないストーリー。
クリスチャン・ベールのメタボハゲぶり。


【感想】
80点!


かなり王道なコン・ゲームを題材にした映画。実際にあった事件「アブキャズム事件」をかなり脚色している。アメリカのほうでは、この事件の知名度ってどれくらいなんだろう? 日本で言えばロッキード事件リクルート事件のようなものか。当時は大きく世の中を騒がせたけれども、今では過去のものになっている……みたいな。大まかな概要は知られているけれども、詳細は知られていない話というのは、映画向きな題材のように思える。


監督はデビッド・O・ラッセル。この人の映画は『スリー・キングス』を見たくらいで、コメディ・ドラマの名手というイメージがある。僕の評価は高い。傑作映画の黄金年だった1999年でも、屈指の名作だった『スリー・キングス』の監督だけあって、『アメリカン・ハッスル』も面白いだろうなぁと期待感高めに鑑賞した。前評判やアカデミー賞の賞レースのことも知っていたし、前年の『アルゴ』など、1970年代テイストの知的な映画がきているという感じもあったし。


題名が『アメリカン・ハッスル』で、映画の内容は全然ハッスルしていないのだけれど、これは邦題をもっと頑張ったほうが良かったように思える。調べてみると、ハッスルという言葉には「ごり押し」とか「不正な手段で金儲け」という意味があるらしい。なるほど、そういう意味であれば、この映画の題名としてピッタリだ。でも、題名の『アメリカン・ハッスル』をその通りに読み取れる日本人が、そんなにいるとは思えない。ここは、安易なカタカナ邦題が足を引っ張っているようにも感じられた。


というか、この映画はアメリカの裏社会についての知識がちょっとくらいあったほうが面白いと思う。つまり、日本人では面白さも半減かな? 中盤から「ランスキーの右腕」という人物が出てくるけれども、ランスキーが誰か分からないと、どれくらいヤバい相手なのかが理解できないだろうし。


ストーリーは、禿散らかしたクリスチャン・ベールが、カツラや髪の毛を動かして、ふさふさに見えるようにセットする場面からはじまる。登場一発目で詐欺師のイカサマや、虚飾を暴露する演出は上手いと思った。その彼がクリーニング屋を経営しているというのも、いろいろと示唆的。他人の服を綺麗にする、他人のものを着服する、サイドビジネスイカサマ画商をしているというのも同様に。豊かさや華やかさに憧れて、そこに本当の自分があると考える主人公と愛人の痛々しさが身に染みた。


キャスティングはあまり気にせずに鑑賞したので、クリスチャン・ベールのメタボハゲ演技は本人であることに最初三十分くらいは気付かなかったほど。サングラスとかヒゲとか生やしているし、パーティーの場面の臆面もなく出てくるぶよぶよな肉体は、デニーロ・アプローチ的にスゴいと思った。もちろん、肉襦袢みたいなものを着けているのだろうけれど、似合うように全体を増量しないといけないから。


ストーリーは、巻き込まれ型のコン・ゲーム映画の王道のように進む。ケチな悪党が、危ない橋を渡らされそうになって、その危なさが加速度的に巨大になってしまう……という内容。イケイケのFBIの捜査員や、聞き分けのない主人公の妻、思ったよりも市民のことを第一に考えている市長などに囲まれて、にっちもさっちもいかなくなるが一発逆転の手段を思いつく。ストーリーはかなり整理されたものになっていて、突飛な展開などはほぼないのに、どんどん先行きが不透明に予測不能になるのは良かった。


印象深かったのは、意外に清廉で市民のことを一番に考えている政治家カーティス。最初はエルヴィス・プレスリーのパチモンみたいな人だったのに、騙すにはちょっとどうかというくらいに政治家として立派な人なのは、これまでの映画にない新鮮な視点だった。というか、実際もこういう政治家が大半だと思う。逆に言えば、そうでなければ政治家としてやっていけないはずだ。で、そのカーティスの熱意や善意を利用して、アブキャズムを仕掛けるFBIはさすがにやりすぎのように思えた。この辺りのことは、実際のアブキャズム事件でも大問題になったらしい。


あと、主人公の愛人を演じたエイミー・アダムスと、妻役を演じたジェニファー・ローレンスが良かった。ジェニファー・ローレンスのパーなビッチ役は最高だった。しかも、若いのに滲み出るおばさん臭とか。『007 死ぬのは奴らだ』の音楽にあわせて踊り狂う場面も良かった。この映画は70年代の音楽が効果的に使われているけれども、その中でもテンション的にもバカっぽさ的にも最高な場面だったと思う。


見終わって思ったのは、「政治がグレーな部分に手を突っ込んだらダメだなぁ」ということ。カーティス市長は雇用を生み出すためにカジノを誘致しようとするが、その志は結局FBIとマフィアの両方を引き寄せてしまう。清濁併せ持つというよりも、清濁を飲まざるをえない状況を作ったカーティス市長のカジノ計画が、そもそもダメだったのだろうなぁと。で、現実を観てみると、日本でもカジノ計画があって、ヤクザを関わらせない仕組みを作ることや、莫大な経済効果が謳われているけれども、そんなことが果たして可能なのかという気がしてくる。公営ギャンブルのノウハウがあるから、上手くいくかもしれないけれど。


点数については、良い映画なんだけれど、コン・ゲーム映画としてのカタルシスが弱いのでこの点数。アカデミー賞にノミネートされるのは妥当だけれど、受賞はしないのでは? と思ったり。アメリカ人であれば、この映画の機微のようなものが、もっと堪能できたかもしれない。


パンフレットは、料金以上の内容があったと思う。町山智浩氏の解説が入っていると、グッと読み応えがあがるよね。