『タイピスト』

名画座で鑑賞。パンフレット、すごいオシャレで買いたかったけれども予算がなく断念。

【ストーリー】
フランスの田舎から秘書に憧れてやってきた女が、タイピングの腕前を見込まれてタイピング大会に挑戦する。


【見所】
スポ根映画なところと、オシャレなビジュアル。
女性が主人公のスポーツものって、鬼コーチと恋仲になるの法則。


【感想】
1950年代のフランスを舞台に、タイプライターのタイピング技術でのしあがっていく女性を描いた映画。今では考えられないことだけれど、タイピングがキャリアウーマンの技術としてもてはやされ、大会の勝者は女性の憧れにもなった……というのは、たぶん脚色もあるだろうけれど、異色のスポーツ映画になっている。タイピングは速さを競うスポーツ。


保険会社を営んでいる男が、秘書の求人を出したところ、そこに田舎から来たひとりの女性(ローズ)が応募する。そのタイピング(一本指)の速さに目を奪われた男は、タイピング大会に出ることを条件に女性を雇うのだった……というのが大まかな内容。で、タイピング大会を特訓の成果もあって勝ち上がり、やがては全国大会、世界大会へと進んでいく……という展開はもろにスポーツ映画の形式に沿ったものだと思う。というか、地方大会から世界大会までを描くスポーツ映画ってなかなかないような気がする。そういう意味で、タイピング選手権という題材は地味でも、スケールはデカい。


映画のビジュアルはとにかくオシャレ。オープニングのムービーからはじまって、クリスマスのダンスパーティ、タイピング大会の音楽のセレクトまで、本当にフランス映画らしく洗練されている。描かれている時代が1950年代なので、そういうトーンで統一しているのだろうけれど。俳優も、コーチ役のロマン・デュリスと、ルイの幼なじみの女性を演じたベレニス・ベジョが良かった。ベレニス・ベジョは『アーティスト』にも出演していたけれども、ちょっと古い時代の自立した女性を演じるとピカイチだ。


映画を見ていて、「これは監督はスポ根ものを熟知しているなぁ」と思ったのは、最終的には「なぜ戦うか」が問われているところだ。主人公のローズはタイピングの才能があることを自覚しているけれども、タイピング選手になることを夢見ているわけではなかった。特訓に耐えるのもコーチとの愛を求めてのことだし、父親とコーチの二人との確執を乗り越えたところで世界一になり、愛を手に入れるという展開は上手いと思った。


ただ、この映画はローズの物語というよりも、コーチ役であるルイの物語のほうに重心があるようと感じた。すると、一番の見せ場であるタイピング大会の場面ではルイは見守ることしか基本できないので、スポーツに勝つという場面で観客が得るカタルシスが弱まってしまう。ローズにこそ、コーチとの関係と、父親との関係の二つのハードルがあるのだから、そちらに重心を置いたほうが、もっと感動できたと思う。タイピング大会については、他の対戦相手の描写や、敗者の悔しがるカットを挿れているところに、丁寧な作りを感じた。


(現代ではあまりない)タイピングに命懸けてる、ということへの説得力については、観ていて十分伝わってきた。あと、特訓シーンの、10本指でのタイピングを徹底するために爪に色違いのマニキュアを塗ったり、ピアノを練習するというタイピングならではの描写がある反面、やっぱりランニングのシーンは外せないのか〜と笑ってしまった。最後、アメリカとフランスの一騎打ちになる(そして勝つ)という展開は、フランス人なら大興奮するはず。そういうスポーツ映画としてのエッセンスが凝縮した作品だった。