『黒執事』

映画館で鑑賞。パンフレットも購入。ちなみに原作は未見。『黒執事』については、セバスチャンは知っている程度。


【ストーリー】
万能の執事を従えた大財閥の御曹司が、謎のミイラ化事件の解決に乗り出す。



【見所】
男性俳優陣の顔面力!
あと、なにげにアクションが良かった。


【感想】
今回は点数をつけます。
60点!


漫画原作の映画で剛力彩芽主演ということで、好んで地雷を踏むつもりで鑑賞した。すると、個人的には『47ローニン』なんかよりもずっと楽しめた。『47ローニン』を以前、60点と採点したけれど、あっちを47点にして、本作を60点にするのが妥当。いろいろと思う部分はあったけれども、基本的に過不足なく楽しむことができた。同じような映画といえば、誰もが『ガッチャマン』を思い浮かべるかもしれないが、あの映画よりも志は断然高い。


まず、映画を観る前にパンフレットを購入するのだけれど、このパンフレットの内容がそこそこ良かったので、「お、今回はちょっと違うかも」という予感があった。なんといっても、(『ガッチャマン』にはあった)監督と製作スタッフのどや顔対談がなかったこと、コラムが一本書かれていたことが大きい。漫画原作のパンフレットとしては、そこそこ形になっている。やっぱり、『黒執事』はファンが鑑賞するものなわけで、パンフレットに中身があると嬉しいのではないか。


監督は『NANA』シリーズを手がけた大谷健太郎と、『アシュラ』を監督したさとうけいいち大谷健太郎がドラマを、さとうけいいちがビジュアルパートを手掛けているらしい。二人のうち、どちらが仕事をしたかについては、さとうけいいちに軍配が挙がる。というか、大谷健太郎の監督・演出はちょっとどうかというくらい酷いし、さらに輪をかけて黒岩勉の脚本も全然ダメ。黒岩勉が脚本に指名されたのは、『謎解きはディナーのあとで』の実績を買われてのことなんだろうけれど、感心した部分はなにもなかった。


とにかく、映画『黒執事』は冒頭のシークエンスがなにもかも酷い。人身売買が行われている倉庫に潜入した清玄(剛力彩芽)が、セバスチャンによって危ういところを助けられる。で、ヤクザ相手の立ち回りで倉庫が炎上するんだけれど、最初に少女たちが木箱に押し込まれるという描写があるのに、助けようとする描写がなにもない。清玄は「西側諸国の女王」の諜報員という役目もあって、単純に正義と言い切れないキャラなんだけれど、少女たちが詰め込まれている木箱が燃えるのを尻目におしゃべりしている2人を観て、これはあかんわー感情移入できんわーという気になった。


基本、伏線は全部モノローグで説明してくれるし、描くのが難しそうな場面は、セバスチャンが「やっときました」ばりに情報を出してくる。また、警察の面々も思わせぶりに登場しておきながら、中盤以降は物語的に機能しないというバカっぷり。さらに、清玄が調査に出ればピンチに陥り、セバスチャンは別に調査なんてせずとも真相に辿り着くだろう、というご都合主義。しかも、万能という割に、最初から最後まで、主人を危機に晒してばかりなんだよね……なにこの脚本仕事しろ。


【気になったところ】
1.なんで清玄は両親を殺されたあとに、背中に東側諸国の焼き印を押されたのか。あれ、若槻を傀儡にするつもりなら、清玄もぶっ殺さないといけなかったよね?
2.物語のキーとなる、イプシロン製薬のミイラ化ドラッグは、別にあれを使わなければならない理由って実はない。普通の毒ガスでいいじゃんという。あと、イプシロン製薬は自分たちが招待したドラッグパーティで死人を出したら、いの一番に怪しまれると思う。
3.人身売買組織のヤクザをぶっ殺して、わざわざ捜査を振り出しに戻した意味が分からない。お持ち帰りして拷問でもして口を割らせれば、簡単に真相に近付けたのでは? あと、予告編にも出ていた「警察の捜査資料を集めろ」ってセリフは最低だと思った。
4.西側諸国の女王が、なにを思ってミイラ化事件を調査しろと命じたのだろう?
5.若槻はなんで明石がセバスチャンと戦っている間に、清玄を撃ち殺さなかったのだろう? 何万人も死ぬ毒ガスが起動しているのに、みんなのんびりしすぎ。
6.リンが殺人マシーンとしての訓練を受けていると、清玄が知らないのはおかしい。


……などなど。そういう撮影側のダメダメさを、演技側の役者陣の頑張りで鑑賞に耐えることのできるレベルに戻しているというのが、この映画の見所だ。特に、男性陣は顔面力のある俳優を揃えて、中身のないストーリーを上手く誤魔化している。伊武雅刀栗原類、志垣太郎、橋本さとし岸谷五朗、そして、特に刑事を演じた安田顕と、若槻の執事を演じた丸山智己が良かった。安田顕は『変態仮面』でニセ変態仮面を演じた人で、スクリーンに顔面が映るほどに不穏な空気が流れる(なにもしないけれど)。丸山智己も、セバスチャンの相手になるだけの説得力がある。水嶋ヒロは、予告編ではキモいキモいと言われていたけれども、他の俳優のアクの強さと比較すると、あの演技で正解だったと思う。


また、剛力彩芽も、男性陣の顔相撲を丁度良い案配に中和していた。演技も監督の演出の酷さほどには、酷い演技でもない。ちゃんと、劇中でもセバスチャンが剛力彩芽に演技指導するシーンがあるし。バカで、劇中の年齢を考えれば20歳は越えているはずのメイド、リンを演じた山本美月も良かった。といっても、その良かった部分のほとんどは、唐突なガン=カタなんだけれど。メガネっ娘のメイドが、メガネが外れた瞬間に殺人マシーンになるところが素晴らしかった。でも、脚本的には、そこに至る過程が頭悪すぎ。


ストーリーは、漫画『黒執事』の設定を元に、『バットマン・ビギンズ』にチャレンジしてみた、という内容になっている。清玄が社長をしているファントム社の、モノレール直結のビルというビジュアルが『バットマン・ビギンズ』のウェイン・エンタープライズだし、両親が謎の組織に殺されたり、陰謀が毒ガスだったり、主人公が館に住んでいたり、社内のナンバー2に裏切られるところなど、共通点が非常に多い。なんで『バットマン・ビギンズ』なのかと言うと、あわよくば3部作を狙っているのかもしれない。


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でも、僕個人は『バットマン・ビギンズ』は好きな映画なので、本作もそこそこ楽しく観ることができた。『ガッチャマン』みたいな安直なパクりじゃないのも好感が持てる。あ、でも安直なパクりといえば、オープニングのタイトルムービーは、露骨に『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』を連想した。あそこで、お坊ちゃんのお尻がヤバい! と思ったけれど、そんなことはなかった。ミステリー要素もなんちゃってな程度だし。ただ、物語はご都合主義となんだかな〜の連続なんだけれども、俳優の顔面力とアクションが楽しめるので、最後まで見終わると不思議な満足感はある。ギリギリ及第点という映画。漫画原作の映画は、最低でもこれくらいのハードルは超えてほしいという見本にもなる。