『大脱出』

映画館で鑑賞。パンフレットを購入。
ネタバレします!



【ストーリー】
刑務所の警備コンサルタントをしている脱獄のプロが、陰謀によって難攻不落の刑務所に投獄。そこから、刑務所仲間の協力を得て、脱獄を目論む。



【見所】
スタローン&シュワちゃんの2大共演!
何気にキャストは豪華だよね。サム・ニールとか、50セントとか、ヴィニー・ジョーンズとか出てるし。


【感想】
80点!


最近、僕はスタローンの映画を立て続けに見ていて、『ロッキー』とか『ロッキー・ザ・ファイナル』とかなんだけれど、スタローンって良い役者だなぁと最近しみじみ思う。過大評価や過小評価の呪縛から逃れて、ようやく等身大のスタローンを観ることができるようになった。そして、自らのキャリアと最近の再評価の波に乗って、コンスタントにアベレージの高い映画を出してきているという印象だ。というわけで、僕の80点という評価は「映画として安心して鑑賞できる」という意味も含まれている。


Podcastの『リアルウォッチメン』と『ムービーウォッチメン』を聴いてから鑑賞したもの良かったかも。僕はネタバレがあまり気にならない(というか、ネタバレだけでもそこそこ満足できる)し、そこである程度のハードルを設定して鑑賞するのだけれど、スタローン主演の映画はそういう鑑賞前の見立てを軽々と越えてくれる。たぶん、誰が見ても、そこそこ満足できるだろうし、テレビの映画で放映されても「あ、ちょっと見ようかな」と思わせる魅力がある。『リアルウォッチメン』で語られていたVHS感という感想を僕も持った。


監督はミカエル・ハフストローム。この人の映画を見たのははじめてだけれど、パンフレットのインタビューなどを読んでみると雇われ監督らしく、ちゃんとスタローンとシュワルツネッガーを魅せる映画作りに徹している。主導権はスタローンにあったとしても、二大アクションスターの、夢の競演をちゃんと成立させただけでも偉いと思った。


映画的に言えば、「スタローンとシュワルツネッガーの競演」という売り文句で、僕たちが思い浮かべるものが、過不足なく描かれているところが良かった。でも、この2人で脱獄ものの映画を作るというのは、最初のコンセプトからしてどうかな〜という気もしないでもない。スタローンもシュワルツネッガーも、男同士の友情は似合うけれども、男を率いるリーダーではないんだよね。シュワルツネッガーはカルフォルニア州知事の経験からリーダー的な役もできるようになったかと、『ラスト・スタンド』なんかを見て思ったけれども今作はそんなこともなかった。シュワルツネッガーは監獄の囚人のボスという役割なのに、手下を顎で動かすようなところがないんだよね。


そもそものコンセプトが、スタローンとシュワルツネッガーの肉体描写にあるわけだから、それも仕方がないのかもしれない。2人とも、得意な見せ場をちゃんと出している。スタローンは痛めつけられるし、シュワルツネッガーはマシンガンを乱射する。この辺りが「よっ!」と言いたくなる部分。対する、監獄の看守長を演じたヴィニー・ジョーンズとか、所長のジム・カヴィーゼルも悪役としてかなり良かった。特に、ジム・カヴィーゼルは肉体派の2人に対するキャラとして、とても印象深かった。スタローンの上司のヴィンセント・ドノフリオも、潔癖症な演技がかなり良かったし。


他に見所としては、やっぱり難攻不落の監獄のギミック。ポスターや予告編でネタバレがばんばんあって、不評なんだけれど、それはそれとして巨大タンカーが刑務所になっているというのは面白かった。舞台にはったりが利いていると、映画全体のルックも数段上がる。しかも、洋上にあるために、逃げるためには船がどこにあるかを知る必要があるという展開は、脱出ものとして新しいかも。看守が仮面を被っていて、人格を隠しているという設定や、それでも観察していると差異があるという話は良かった。


ただ、やっぱり今作の問題点は、脱獄ものとしてそれはどうかという脚本・演出・展開にあると思う。一番気になったのは、所持品検査をしない警備体制! 古典的な名作『アルカトラズの脱出』だって金属探知機をどう潜り抜けるかのスリルがあったし、本作でもセンサーとかで囚人の動きを検知しているのに、そこのスリルは描かないのは不満が残るところだ。あと、一番のネックになっていた、「監獄の位置を割り出す」と「外部と連絡を始めとしてとる」の両方の描き方はもう少し方法があったのでは?


スタローンの仲間の2人が、脱獄にまったく関係しないし、シュワルツネッガーの娘の役割を考えると、あそこは六分儀で脱出するのではなくて、検知器を自作するような展開のほうが熱かったと思う。六分儀の使い方も、あれが出てきたところで「あ、そこでメッカの方向にお祈りしていた描写が生きてくるのだな」と思ったのだけれど、外でお祈りしているし。あれ、(可能性として)昼間だったらどうしたんだろう? イスラム教徒のお祈りの時間ってあったはずだし。「メッカの方向を向いてお祈りしている」「あいつらは方向が分かるのか?」「コンパスを隠し持っていた。これで位置が分かる!」みたいな展開のほうがよかったと思う。


あと、スタローンがコンコンガラスを鳴らすところで、「もしかして、ガラスを共鳴させて割って脱出するのか?」と思ったのだけれど、そんなことはなかったね。別棟で暴動を起こすっていうのも、あまり生かされなかったし。スタローンとシュワルツネッガーが監視下で仲良すぎというのも、大味な感じがして、サスペンス感を目減りさせることになった。そこは、ある程度、割り切って映画にしているはず。とにかく、いろいろなところが惜しいと感じた。


パンフレットは可もなく不可もなく、という内容。もう少し、スタローン&シュワルツネッガーの、記念映画的なお遊び記事があってもよかったのに。


映画は観て損はない。映画館で観ないといけないというほどではないが。