『ステルス』

スカパーで鑑賞。



【ストーリー】
最新鋭ステルス機に乗ったエースパイロット3人と、無人機(エディ)が極秘作戦を遂行していくが、エディが落雷を受けて自我に目覚め、それによって数々のトラブルに見舞われる。


【見所】
ミャンマーウズベキスタン、ロシア……
そして北朝鮮アメリカ軍のステルス戦闘機が殴り込み!
とんでもないバカ映画なんだけれど、映像はスゴい。
アラスカで格納庫からのミサイル発射で扉ごと敵をぶっ飛ばすシーンなど、どうやって撮影したんだろ?


【感想】
これ、現実にやったら第三次世界大戦だよね。


かつて、『チームアメリカ・ワールド・ポリス』って映画があったけれども、あれの精神を受け継ぎながら、ストーリーそのものはアメリカ軍の暴走をなんとなく受け入れさせる作りになっているという怪作だった。こういう映画を観ると、「話の無茶苦茶さをどうやって周囲に納得させたんだろう?」と疑問になってくるし、この映画の場合、アメリカ海軍がかなり協力しているんだよね。これ、アメリカ海軍の株を落とす話のようにしか見えないけれども。


とにかく、アメリカ海軍の極秘ステルス戦闘機チームが、他国への軍事行動をしまくるという内容に驚いてしまう。2005年の映画なので、2003年からはじまったイラク戦争の余波を受けて作られたことは容易に想像できる。多分、作り手たちは、「ステルス戦闘機で他国を爆撃する」という大バカな基本プロットを納得させるために、「だって、ほら、イラク戦争も似たようなもんでしょ?」みたいな説得をしたんだろうなぁ。


監督は、『トリプルX』や『ワイルド・スピード』の監督であるロブ・コーエン。全体的に、「違法行為すれすれのところで、筋と正義を守るヒーロー」を描くことに長けているというイメージがある。でも、今作の場合、違法行為が国際法なんだよね。しかも、違法行為すれすれどころか、完全に国際法的にNGなことをしているし。さすがに対マフィアや、対ギャングであれば、違法行為すれすれでも「仕方ないか」と許容できても、対北朝鮮や対ロシアはあかんだろうと。


でも、「細かいことはいいんだよ!」というアメリカ映画伝統の「文脈」で観ると、主人公のベンと人工知能のエディの、変則的なバディものとして観ることはできる。そこも主眼ではないと思うが。この映画が本当に描きたいのは、「打倒、マイケル・ベイ」的な、際限のない破壊のビジュアルにある。「爆発はすべてを忘れさせ、すべてを消去し、すべてを丸くおさめる」というメソッドが、ハリウッド映画にはあるような気がする。しかも、そのメソッドが超洗練されているので、ついつい騙されてしまうのも始末に悪い。


映像がいちいちダイナミックで、鑑賞していると思考力が麻痺してくるんだよね。とにかく爆発、とにかくミサイル、とにかく虐殺という感じで。核爆発的な描写がなんの必然性もなく出てくるのには参った。「ここ、でかい爆発ほしいっすね。そこをステルス戦闘機がグワァって飛ぶイメージで」「いいねぇ。核爆発いっとく?」みたいな軽さがたまらん。この物語の最終的な敵は北朝鮮になるのだけれど、38度線をステルス戦闘機で侵入して、ミサイルでなにもかもぶっ飛ばしたら、めでたしめでたしでは済まないはず。それが、美しい爆発炎上の映像で、なんとなく花火を見物しているような気持ちになってくるのよね。


この映画は基本的に主人公が地味で、それ以外がキャラ立ちしているという種類の映画。北朝鮮に不時着した女性パイロットを追い詰める北朝鮮の軍人とか、空母エイブラハム・リンカーンの艦長とか、そんなに出演時間はないけれども強烈な印象を残す。北朝鮮の軍人の、ジェシカ・ビールを崖越しに狙撃するシーンとかスゴい良かった。その後、肩を撃たれても普通に逃げ回るジェシカ・ビールの不死身ぶりには驚くけれど。


主要キャラは、ジェシカ・ビールジェイミー・フォックスは安定していたと思う。この後、大スターになるだけあって、輝くものがあるなぁと。主役のジョシュ・ルーカスは、フィルモグラフィを観ると、いろいろな映画に出ているけれども、今もパっとしていない。元々、バカ映画向きの俳優ではないのかも。やることに対して、顔がバカっぽくないのは致命的だった。悪くはないと思うんだけれど、このキャラと、人工知能(こいつも紋切り型なんだよね)の掛け合いも、あまり面白くないし。


全体的に大味な映画で、カミングス大佐と政治家の話とか、消化しきれていない部分は多々あるものの、そこまで求めるような映画でないことは明らか。ここまでのことをやって、北朝鮮領内に証拠のステルス戦闘機の残骸を残してしまって、しかもラストで人工知能が実は生きているという描写まであって、これからどうなるんだ、という不安感は拭えない。ただ、アメリカ人って、結果がどうなってもテイク・イット・イージーな感覚なんだろうなぁと、そういうメンタル部分が透けて見えた。