『ノウイング』

スカパーで鑑賞。


ノウイング プレミアム・エディション [DVD]

ノウイング プレミアム・エディション [DVD]


【ストーリー】
50年前のタイムカプセルから、未来の大惨事を予言する紙が出てきて、宇宙物理学者の主人公が巻き込まれる。


【見所】
飛行機事故、地下鉄事故、人類滅亡!
やりすぎディザスター描写。


【感想】
2009年に作られたディザスタームービー。人類滅亡や地球滅亡映画というのは、実際には「ない」ものだけに、映画というイリュージョンで作りたいと思うのかもしれない。巨大な予算が投入されて、革新的な視覚効果が生み出されるという利点もあるし、マーケティング的にも「人類滅亡」というテーマはキリスト教的に身近なものだったりする。そうでなくても、人類滅亡の予言や予測があると、それを利用してこういう映画が作られるのは、例えば、大きな事件があるとそれを元にした映画が作られたりするのと一緒だ。


50年前に少女が書いた数列が、タイムカプセルによって物理学者の手に渡り、そこに書かれた大災害の暗号に物理学者が振り回される……という話。独特なのが、この映画が単なる人類滅亡の大災害を描いているのではなく、キリスト教的な終末観と救済観をもとに描かれているということ。ハリウッド映画はどんな作品であれ、キリスト教的な価値観をもとに作られているのだけれど、本作の場合は露骨の度合いが過ぎると思った。丁度、アメリカのキリスト教福音派や、ティーパーティーの活動が盛り上がっていたので、そういう客層が詰めかけて、アメリカ本国では大ヒットしたという。


監督は『ダークシティ』のアレックス・プロヤス。「人知を超えた存在に振り回される」タイプの映画を得意としている人で、今作はその集大成と言える作品かもしれない。「人類が滅亡するかもしれない」という(荒唐無稽な)アイデアを、主人公が本当だと信じ、それに振り回されながらも行動するというストーリーは、ちょっとバランスが悪いと途端に鑑賞に堪えられないものになるわけで、それを堪えられるものにした手腕はさすがだ。ちなみに本作に出てきた天使っぽい人は、なにげに『ダークシティ』の宇宙人に似ているような気がした。もしかしたら、監督的には『ダークシティ』のビギニング的な位置付けなのかも。


物語的に感心したのは、「人類滅亡」のアイデアを主人公は序盤で確信するのだけれど、なかなか周囲が理解しないというところ。ニコラス・ケイジが深刻な顔で近付いても、普通は警戒してしまうよね。些細な偶然の積み重ねで、主人公を確信に至らせる方法も上手い。ちょっとした会話や、零したグラスの跡や、もちろん主人公が宇宙物理学者で、宇宙物理学には決定論とランダム論二つの大きな潮流がある(本当にあるかは不明だけれど)といった伏線や演出によって、荒唐無稽さのハードルを超えていくのは上手いと思った。もちろん、「く、苦しい……」と観ていて思う部分もあった。


苦しいなぁと思った一番の理由は、主役がニコラス・ケイジだったからかも。ニコラス・ケイジが終始困り顔をしているので、物語に緩急を感じづらかった。序盤は、(妻が死んだという設定があったにしても)ある程度明るい顔を見せても良かったと思う。


映画的には『未知との遭遇』の現代版と言える。「子供がさらわれたままで、大人が宇宙に行かない未知との遭遇」という説明が一番しっくりくるかも。映画として比較すると、ディザスター度はCG全盛である『ノウイング』の圧勝なんだけれども、「なにか不思議なことが起きている」という描写や演出は、『未知との遭遇』ってとんでもない映画だったなぁと。砂漠に捨てられた船とか、インドの変な宗教とか、世界的な科学者による会議とか、ロマンに溢れる描写が続くし。『ノウイング』の場合は、映像的にはどんなものでも表現できてしまう時代だからこそ、作り手の才能の差が如実に出てしまう世の中になったなぁと感じた。もちろん、アレックス・プロヤスは力のある監督だが。


見所のディザスター描写は、さすがに圧巻だった。序盤の飛行機事故の阿鼻叫喚な描写はすごかった。飛行機の機体が真っ二つになるほどの事故なのに、意外に人が這い出てきているとか、炎の中に立つニコラス・ケイジとか、おかしな部分があったけれども、大惨事な映像という意味では迫力があった。さらに、おそらく福知山の脱線事故をモデルにした地下鉄事故など、爆発や横転した電車に人々が巻き込まれる様がそのまま描かれているのにはビックリした。


アメリカ国内向けの内容なので、ラストのオチにはついていけないところもあるとは思うものの、まあまあ満足度の高い映画だった。新世界のアダムとイブになっても、あの二人だと生きるのが辛そうという心配はあるけれど。