『007 私を愛したスパイ』

スカパーで鑑賞。



【ストーリー】
原子力潜水艦が行方不明になるという事件が発生し、その解決のために西側最高のスパイである007と、東側最高のスパイであるXXX(トリプルX)が共闘をする。


【見所】
もはや伝説となった冒頭のスキージャンプ→ユニオンジャックのパラシュート!
ルクソールの宮殿の下にはイギリス諜報部の秘密基地が!
そして、巨漢の殺し屋ジョーズ


【感想】
面白かった。


ロジャー・ムーア主演の007って『死ぬのは奴らだ』とか『黄金銃を持つ男』とか『ムーンレイカー』とか、とにかく大味な印象があって、あまり好きではないのだけれども、『私を愛したスパイ』はとても面白かった。なんというか、スパイ映画の集大成のような作品で、とにかく大スケール、とにかく外連味があふれる、とにかくオシャレと盛りだくさんな内容になっている。さすが、007の10作品目としての意気込みが感じられる作品だ。


行方不明になった原子力潜水艦の行方を捜す007は、海底帝国を築こうとする海運王ストロンバーグの野望を挫く。ストロンバーグのモデルは、ギリシャの海運王オナシスで、スケールの大きさは『ムーンレイカー』のドラックスにも引けを取らないと思う。まず、海底に住んでいるという設定が面白いし、原子力潜水艦をジャックして核戦争を起こすという計画もぶっ飛んでいる。ストロンバーグのアジトの、ゴージャスな内装とかは、さすが世界征服を狙う巨悪! という趣味の良さがあった。


見所は大規模なエジプトロケ。ルクソールの宮殿の地下にイギリス諜報部の秘密基地があるというのは、今からしてみると「それってどうなんだ」と思わざるを得ないけれども、フィクションとして楽しい。007映画おなじみの、異国情緒あふれる舞台設定という意味でも、『私を愛したスパイ』は楽しめる作りになっている。『アラビアのロレンス』か! みたいなツッコミはあるけれどね。そういうパロディ的な要素も含めての007という。


それに巨漢の殺し屋ジョーズとの戦いは、「鉄の歯に噛まれる噛まれない」の攻防が、フリッツ・フォン・エリックのアイアンクローを巡る戦いを彷彿とさせて、馬鹿らしいのだけれど手に汗握る。ロジャー・ムーアは走る場面も代役を使ったなんて言われるけれども、ちゃんとジョーズとの戦いは頑張ってアクションしていた。そして、『ムーンレイカー』ではギャグキャラになったのだけれど、この作品ではジョーズの不気味さが突出しているんだよね。このジョーズを契機として、「なにをしても死なない殺人鬼」というスプラッター映画に使われる設定が出てきたのだと思う。そういう意味でも映画史的に意味がある。


ちょっとどうかな〜と思ったのは、ソ連側のスパイであり、婚約者をボンドに殺されたヒロインのXXXことアニヤ・アマソワが、ぜんぜん「東側最高のスパイ」のように見えないということ。任務中に居眠りするってどうよ、みたいな描写にはガッカリした。でも、登場したときの、男と思わせておいて、実は隣にいた女こそがXXXだった……というのは良かった。でも、婚約者を007に殺されて、その復讐に燃えるという展開も、冒頭のシーンのおかげで説得力がないのよね。案の定、ボンドに骨抜きにされてしまうし。


007中興の祖と言える作品だけれど、それも次回作の『ムーンレイカー』でガッカリになってしまう。僕は『ムーンレイカー』も好きだけれどね。ドラックスの優性人類の趣味がよろしくて。