『ザ・アーティスト』

スカパーで鑑賞。


【ストーリー】
無声映画のスターが、トーキーの波に乗り遅れて没落するが、愛によって復活する。


【見所】
犬!
犬が超凄い。


【感想】
第84回アカデミー賞の作品・監督賞の受賞作。アカデミー賞を選ぶ会員は、この映画を観たら、たぶん古き良きハリウッドのノスタルジーで悶え死んだのだろうなぁと思った。


この映画って、最初から賞狙いの映画であることは確かで、受賞作というネームバリューでマーケティングを征していった作品であると思う。そうでなければ、21世紀になって無声映画を撮ろうという冒険はありえないわけだし、作り手の勝算もそこにあっただろうと思う。ただ、その勝算を現実のものにするのは、誰が考えてもギャンブルなわけで、そのギャンブルに勝利したミシェル・アザナヴィシウスの才能は傑出している。しかも、この映画はフランス映画でもわるわけで、ヨーロッパ・コープばかりがフランス映画じゃないぞという証左でもある。


監督はミシェル・アザナヴィシウス。この映画でいきなり世界の映画賞やベストテンを総なめにした才人だけれど、『ザ・アーティスト』の前は007のパロディ映画の監督をしたくらいらしい。でも、このパロディ映画の監督という経験が、『ザ・アーティスト』にも活きていると思う。パロディ映画は、元ネタのエッセンスをいかに引き出すかが重要なわけで、無声映画という現在のブロックバスター映画とは対極の仕掛けの中で、現在の観客にも楽しいと感じさせるものに仕上がっている。


見所は、なんといっても犬。ここまで芸達者な犬がいるのか! というくらい芸達者で驚く。無声映画で観客の興味を持続させるための装置として、犬は重要な役割を果たした。特に、ピストルを撃つ真似でばったりと死んだふりをする芸が可愛すぎる。最初のカーテンコールとか、いつまでも死んだふりしているし。


この映画は、登場人物が全員魅力的で、特にペピーを演じたベレニス・ベジョが良かった。笑顔が可愛い女性って良いよね! 主人公のジョージを演じたジャン・デュジャルダンや、運転手役のジェームズ・クロムウェルも印象深かった。


演出については、ジョージとペピーの力関係を示すものとして、階段の上り下りが印象的に使用されている。でも、もう少し演出として徹底させても良かったような気がする。例えば、ラストは二人で階段を上るようなシーンを入れるとか。あと、ジョージがトーキーの波に乗り遅れた理由が、思ったよりも解りづらかった。声に対するコンプレックスがあるようには見えないし、ラストのジョージの声も、ちゃんと渋い声なんだよね。無声映画に意固地になっている理由がよく分からない。


撮影については無声映画にチャレンジしておきながら、カメラワークなどはちゃんと原題向きに洗練されたものになっている。これを良しとするか、中途半端とするかは、鑑賞する人それぞれの好みの問題かな。