『愛と誠』

スカパーで鑑賞。


愛と誠 コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

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【ストーリー】
喧嘩ばかりの不良少年が、子供のころに助けた大財閥の令嬢に振り回されつつも、戦いに明け暮れる。



【見所】
三池崇史監督の悪ふざけ。
まあ、今の時代に『愛と誠』を描くのなら、こうせざるをえないのだろうけれど。


【感想】
うーん、微妙だった。

純愛ものの名作と言われた漫画『愛と誠』を映画化する、しかも、この21世紀に!という無茶な企画を成立させるために、白羽の矢が立ったのは三池崇史監督。この人を監督として起用するのはギャンブルで、とんでもない傑作になる可能性もあれば、とんでもない駄作になる可能性もある。でも、僕が観るところ、原作の映画化作品はギャンブルに負ける場合が多いよね、という印象。そもそも、三池崇史監督は「勝算」を重視する職人監督なので、起用されたときにどこが「勝算」になるか考えたはずだと思う。


『愛と誠』は過去にも映画化された梶原一騎の代表作ではあるけれども、「身分違いの純愛」と「不良番長」の世界観は、はっきり言えばリアリティを出しづらいものにしている。漫画で連載されていた時代にだけ通じるロジックなので、今作でも時代設定は1970年代になっている。ここを無理に現代にしなかったのは英断だと思う。そして、レトロな雰囲気という装丁で、ミュージカル的な演出でなんとか世界観を成立させている。


これに乗れるか乗れないかは、もう観客次第だと思う。僕は正直、この世界観に乗ることはできなかった。三池崇史監督の狙いについては、十分すぎるほど伝わったのだけれど、やっぱり今の時代に『愛と誠』を映画化する意味が最後まで分からなかった。つまり、そもそもの企画が悪かったとしか。ただ、乗れなかった最大の理由は他にもある。


役者について、主演の妻夫木聡武井咲斎藤工はかなり良かった。それぞれ「喧嘩バカ」「純真バカ」「真面目バカ」を吹っ切れた演技で演じている。妻夫木聡は、映画史上でも屈指の女を殴って殴って殴りまくる映画の主演を引き受けたなぁと、そこは感心してしまうほど。武井咲も、早乙女愛斎藤工もちょっとどうかというキャラを頑張って演じている。武井咲に至っては、変な踊りと上手い歌声を披露するし。


この映画の一番悪いところは、高原由紀を演じた大野いとにある。本当に、なにを思って彼女をキャスティングしたのだろうと正気を疑うくらいのミスキャストで、演技力も声量もないので、ラスボスとしての風格もないのは観ていて頭が痛くなった。中盤まではミスキャストを誘うというのは良いとしても、裏番として正体を現わしてからは、もっと凄味を出す必要があった。高原由紀はスケバン像を確立させたキャラなだけに、例えば終盤は別人にするくらいの思い切りがあっても良かったと思う。


ストーリーについては、主人公の太賀誠が中盤までなにを目的としているのか分からないので、物語に推進力がないように感じられた。野良犬のように喧嘩をするキャラなんだけれど、不良として腕一本でのし上がろうというわけでもない。母親を殺すという目的もとってつけたようなものだし、愛に対する感情も終盤までよく分からない。硬派な不良としての立ち振る舞いはともかく、愛についての想いは、小出しに出していく必要があったと思う。


ミュージカル的な演出は悪くなかった。懐かしい歌で、今では荒唐無稽に見える世界観を成立させているのでは?早乙女家の奥さんを一青窈が演じていたのにはびっくりした。スケバンたちを殴りまくるアクションは、好き嫌いが分かれるだろうけれど、あの思い切りのよさは評価したい。


あと、三池崇史映画ということで、早乙女愛が麻袋に入れられてるシーンは「お、武井咲が人間ダルマに!」とちょっと期待してしまった。『オーディション』とはいかなかったけれども。