『岸辺露伴は動かない』

単行本が出たので、当然購入。




ジョジョの第4部に出てきた漫画家の岸辺露伴が、様々な奇妙な出来事に遭遇するという前提で、一話完結のオムニバスになっている。岸辺露伴スタンド使いだけれど、奇妙な出来事には、幽霊だったり妖怪だったり山の神だったり自然現象だったりするのが面白いところ。題名は『岸辺露伴は動かない』だけれど、実際はそんなこともなく、危機に巻き込まれてスタンドを使って脱出している。


荒木飛呂彦はすごい色彩感覚の持ち主なんだけれども、モノクロで絵を描くスキルも卓越したものがある。カラーイラスト前提の絵は、白黒になると情報が欠落してしまって、漫画の場合は読みづらくなるけれども、長年の雑誌連載によって、どんどん読みやすく洗練された絵になっている。かなり美術史的な勉強をしている人なんだろうな、というのは、六壁坂の冒頭部分を読んでも分かる。多分、絵画的なスキルで言えば、日本でも屈指の人だと思う。


最初のイタリアでの話と、それ以降の絵柄を見てみると、ウルトラジャンプに移籍してから、かなり1枚1枚に掛ける労力が増している。もしくは精神的な余裕からくる洗練が感じられるというか。僕は4部くらいの絵が一番好きなんだけれど、それからジョジョリオンを見比べてみると、もう全然絵柄が違う。一般的には1部の北斗の拳的な絵柄から、3部以降の荒木絵と呼ばれる絵柄の変化が知られているけれども、荒木絵もかなり変化に富んでいる。


漫画家の絵は、上手くなったりオリジナリティが出てくることはあっても、一定のレベルに達すると絵柄が固定されるものなのに、どんどん変化していく面白さがある。今の絵はアートのほうに軸足が行き過ぎていて、漫画的なダイナミズムが薄れているとも感じられるほどだ。あと、荒木飛呂彦はイタリア料理を描かせれば世界で一番だと思う。トニオさんのエピソードがあってもなくても。


ストーリーについては、ロジックを重視する荒木飛呂彦の姿勢がとてもよく感じられた。幽霊や、妖怪や、山の神といった「嘘」を一つ置いて、その嘘を構成する「ルール」を提示し、岸辺露伴が自分の能力で解決するというのは、映画をたくさん見ている荒木飛呂彦ならではの手慣れた感じがある。真似できないんだけれどね。あの、柔軟体操とか、意味ないんだけれど奇妙な味わいがある。


実際、もう語る部分はないんだけれどね。ここまで注目される漫画家になったというのは、古くからのジョジョファンにとっては感無量なところがある。グッチとのコラボの話が来る漫画家なんて、荒木飛呂彦くらいだよねぇ。