『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』

藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編 (1)

藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編 (1)


藤子不二雄というと、アニメのドラえもんパーマンといった、SF的なストーリーでありながら自分の作風を「すこしフシギ」と言うように、子供向けの作品が多いというイメージがあった。この本のあとがきを読むと、藤子不二雄自身も「子供むけのお子様ランチ」を描いていて、自分が大人に読ませるようなものを描いて、評価されるとは思っていなかったとある。たぶん、世間一般の評価も、同じようなものなのではないか。


この本は青年誌に掲載された、藤子不二雄の短編漫画が掲載されている。青年誌に掲載されているので、普通に藤子不二雄のキャラクターで裸が出てくるし、物語も喜怒哀楽が揃っていて大人の鑑賞にも耐えられるものになっている。というか、大人向き。子供に読ませるにはちょっとどうかという内容のものも多い。


巻頭の『ミノタウロスの皿』からして、遠い星に不時着した主人公が、そこで支配者である牛頭の異星人と、彼らの家畜として疑問もなく生きる人間型異星人に翻弄される話になっている。価値観の逆転を描いているSFなのだけれど、人間型異星人の美少女が家畜として「食物」になるというのを、藤子不二雄の絵柄で描くというド外道さは強烈だった。オチも、単に救い出して終わりではなく、異なる価値観に敗北して終わり、というのもビターで大人向き。


読んでいて思ったのは、藤子不二雄ストーリーテリングの上手さ。これについては本当に天才だなぁと思ったのは『ノスタル爺』という短編で、主人公がどういう人物なのか(彼は戦争で30年間ジャングルに取り残された人らしい)、その彼が「予感」というかたちで自ら過去に迷い込むなど、かなり難易度の高い展開でストーリーが形成されている。普通なら、もっと劇的な(受け身な)かたちで過去に迷い込むか、それが最初から主眼になっているように描いたほうが簡単なのに。説明も最大限省略して、味わい深い物語に仕上げる手腕には感服してしまった。


短編集を読んでいて思ったのは、タイムスリップ系の作品が多いということと、アイデア的に他の作品に似たものがあるな、ということ。タイムスリップ系の作品が多いのは、短編SFとしての醍醐味を作りやすいという面があるからだと思う。舞台設定がSF的な作品は思ったよりも少ない。アイデア的に他の作品に似たものがあるな、というのは、やっぱり人の考えるものだから、藤子不二雄くらい多作だと被るものは出てくるな〜と思った。あとがきでも、『休日のガンマン』と『ウエストワールド』の類似性を本人が語っているように、「すこしフシギ」な世界のアイデア自体は偶然重複するのは当然のことのような気がする。


でも、それが藤子不二雄の作風によって、オリジナリティが加味されていることのほうが重要で、慣れ親しんだ絵柄のキャラクターが非情な運命に翻弄されたり、想定年齢層高めのウィットに富んだストーリーになることで、作品そのものの「すこしフシギ」な感じが強まっている。偉大な漫画家の天才性を知るには、これ以上ない作品だと思う。