『16ブロック』

スカパーで鑑賞。



【ストーリー】
ある事件で重要な証言をする囚人を、警察署から裁判所へと送り届けることになった刑事が、警察内部の陰謀に巻き込まれる。


【見所】
山あり谷ありな展開。
うるさい奴に、いつのまにか感情移入してしまうストーリーテリングの妙。


【感想】
警察署から裁判署まで、通りを16本突き抜けて、証人を送り届ける……という限定的な内容だけれど、敵となる警官たちの猟犬ぶりや、二転三転する展開、証人の黒人のキャラクターなど、かなり練り込まれた作品になっている。ブルース・ウィリスが主演している映画ということで、大味なアクション映画かなぁと思っていたら、意外にサスペンス要素が満載で面白かった。


監督はリチャード・ドナー。僕の中でのリチャード・ドナーといえば、『リーサル・ウェポン』ではなく、やっぱり『グーニーズ』や『スーパーマン』だったりする。打率の高い職人監督で、カラッとしたエンターテイメント映画が得意……という印象。でも、『オーメン』の監督なんだよね。『陰謀のセオリー』の監督もしていて、あれは陰鬱な映画だったし、『リーサル・ウェポン』も主人公は病んでいた。そう考えると躁鬱な人なのかもしれない。


この作品もリチャード・ドナーの鬱な部分が随所に観られる。とにかく、ブルース・ウィリス演じる主人公がアル中の汚職警官で、最初は陰鬱な描写が続く。しかも、マッチョなところが全然ない役柄で、『ダークナイト』のゴードンを演じたゲイリー・オールドマンみたいな外見になっているし、『ダイ・ハード』みたいな皆殺しアクションを期待すると肩すかしを食らうと思う。ブルース・ウィリスは薬に頼る主人公って結構好きだよね、という印象。最近観た映画では『マーキュリー・ライジング』とかもそうだったし。


僕が面白いと感じた部分は、とにかく「証人を裁判署まで送り届ける」という、ただそれだけのストーリーが展開していくということ。終盤になると、そこから脱線して物語が解決するのだけれども、それまでの怒濤の展開はとても良かった。証人の「常に喋っている黒人」というウザいキャラも、観ているうちにどんどん感情移入してくる。バスの中で子供と話している場面とか、グッとくるものがあった。ブルース・ウィリスも成り行きで護衛していたのが、感化されて命を賭けるまでになる。この辺りのストーリーの転がしかたは、さすがハリウッド映画という完成されたテリングの技術があって、一番勉強になるところだ。


映画の撮影について興味深かったのは、街中の往来がかなり激しいということ。ニューヨークが舞台なので、人がいて当たり前なんだけれども、エキストラを多数用意すれば、それだけ金が掛かるはずで、その点で言えばかなり贅沢な使い方をしている映画だと思う。これによって、主人公たちを追い掛ける警官から、姿を眩ませられるか……られないかのサスペンスが増した。逆に、裏路地や地下まで通る主人公に対して、警官たちが容易に追いつきすぎ、という問題点も出てきたけれど。でも、主人公が街を熟知しているという設定は良かった。


「人は変われる」というテーマがとても良かった。主人公も悪徳警官から正義に目覚め、囚人もケチな悪党からケーキ屋になった。あのラストは本当にほろりとさせられた。さすがリチャード・ドナー。きっちり仕上げる映画監督だ。