『のぼうの城』

スカパーで鑑賞。


のぼうの城 通常版 [DVD]

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【ストーリー】
豊臣秀吉の小田原攻めの際、寡兵で籠城した成田長親たちと、石田三成率いる天下軍との戦いを描く。


【見所】
水攻めは、CGだっていうのが丸分かりだったけれども、迫力はあった。


【感想】
のぼうの城』は原作は読んでいないけれども、忍城の戦いは知っていたし、結構評判も高かったのでハードルは上げ気味に鑑賞した。圧倒的多数vs少数精鋭といえば『300』が思い浮かぶし、籠城戦ということであれば『墨攻』などもある。『のぼうの城』はそうした作品群の延長線上にあり、日本映画としては結構な重量感のある映画だと思った。なによりも、原作小説とこの映画によって忍城籠城戦が広く知られるようになった、その結果、観光資源として注目されたというのは、現代にこの映画を作る意義として大きい。


評価するべき点は水攻めの堤防と水攻めのCG。これは監督が樋口真嗣だけあって、ちゃんとしたスペクタクルが表現できている。津波を思わせる描写は、東日本大震災で公開延期になったというのも頷ける描写で、この映画の最大のセールスポイントだったと思う。あと、登場人物の配置は目配せが利いていて、性格や役割が被っているキャラクターが一人もいないのも良かった。これによって、ストーリー展開がかなりシャープになったと思う。役者陣では、大谷善継を演じた山田孝之と、正木丹波守利英を演じた佐藤浩市、柴崎和泉守を演じた山口智充が印象深かった。


最近の研究では、忍城の水攻めは豊臣秀吉の命令によるもので、石田三成はむしろ嫌々だったらしい。さらに、この水攻めも関東の豪族たちに畿内の先進的な土木技術と灌漑能力を見せつけるパフォーマンスだったとも。そうでなければ忍城のような城を攻め落とすのに、あんな大規模な工事をするはずもないし、予算も出るはずもないわけで。映画では、秀吉の高松城水攻めに影響を受けた石田三成が、ダイナミックな計略に魅せられて忍城水攻めを強行することになっているのだけれど、ここは石田三成三国志オタクみたいな属性を付け加えたほうが、キャラクターがハッキリしたと思う。


映画の主役である成田長親を演じた野村萬斎は、正直なところミスキャストのように感じられた。演技が悪いということではなくて、黙っていても説得できる「顔面力」が野村萬斎には感じられなかった。この映画は、成田長親の独断によって百姓まで武器を取る籠城戦になっているのだが、野村萬斎の演じかたでは、人心を集めるほどの徳の持ち主には見えない。それに、成田長親のキャラクターって、他の作品で言えば『忠臣蔵』の大石内蔵助が一番近いと思う。大石内蔵助野村萬斎が演じる姿はちょっと思い浮かばない。


あと、酒巻靭負を演じた成宮寛貴の髪が赤いというのは、ちょっとどうにかしてほしかった。ジャニーズの威徳があるのなら、脚本でフォローするとか。お風呂のシーンで身体に刀傷をメイクすればいいのに、脱毛処理したみたいにツルツルなのもどうかと思った。それと同じように、雑兵たちの顔面が朝髭剃ったばかりみたいなツルツル顔なのも、戦国時代を舞台にした戦争映画にしては甘い作り込みだ。他にも、足軽が持つ槍が短いとか、石田三成の軍勢には弓隊がいないのかなど、気になる部分は多い。


ストーリー展開については、最初の戦いが終わってすぐ石田三成が水攻めを決意するのはいかがなものか。籠城戦映画はやっぱり、攻撃側のバリエーションに富んだ攻めを、防御側がことごとく防いで、それから「かくなる上は超兵器(超戦術)を……」となるべきじゃないのかなと。『300』でも『墨攻』でも、だいたい同じような展開なわけだし。それがいきなり石田三成が水攻めを決意してしまうので、石田三成は戦争ではなく土木工事がしたいのか? としか思えなかった。これによって、2万の天下軍というスケール感も台無しになっているし、大谷善継なんて石田三成を諫めるしかない役になっているのは非常にもったいない。


今の日本映画のレベルで言えば、かなり頑張っている映画。でも、もっとストーリーも細部も洗練できただろうに、という粗が残念だった。戦国時代を描いた映画で一番合戦描写が正しいと言われているのが、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』というのは、そろそろ更新してほしいのだ。