『大使閣下の料理人』



一流ホテルの料理人から、ベトナム大使館の料理人になった男が、いろいろな外交の場面で料理の腕をふるうという話。中盤からは、日本に舞台が移って、料理と外交(外国との関係)の密接な結びつきが描かれる。


ストーリー的には、料理で難題を解決する『信長のシェフ』に似たフォーマットだけれど、この作品の場合は料理で解決する問題がより分かりづらいところが面白さを生んでいると思う。外交的に対立している場合に出す料理、というエピソードもあるけれども、実際は「もっと仲良くしたい」とか「なにが問題なのか分からない」という曖昧な場面で、料理をきっかけに解決策を模索するところがこの漫画のキモだと思う。


登場人物は、一見して反日的な人や悪人や俗物政治家でも、ちゃんと血が通った人物として描かれていて、単純に料理でやりこめるといった話は少ない。また、血が通った人物として描かれているので、エピソードごとの終りには、感情に訴えかけられる結末が待っている。このストーリー展開のうまさが、長編漫画として支持されたポイントなのかなぁと(料理漫画はだいたい長編化するけれど)


それ以外にも、前半のベトナム編から世界中を巡る旅をするようになるで、外国の文化や料理に触れ合うというのも見所の一つだと思う。主人公の大沢公はフレンチのシェフなので、フランス料理が出る場面が多いものの、その他にも様々な国の料理が出てくる。東南アジアの料理についてはほとんど知識がなかったので、読んでて食べてみたいと思ったり、興味深かったり。あと、外交という「国益」の最大化を目指すものをテーマとしていつつも、政治的に右寄りにも左寄りにもならない描き方が功を奏していた。この辺りは、原作者の実体験を元にしているということが寄与しているのかも。


個人的には、中盤以降のベトナム大使館から帰国して、特命大使の料理人になって以降の展開ができすぎのような気がする。ベトナム編で描くものがなくなって、キャラクター他を一新したかったという理由があるのかなぁと思うのだけれど、主人公のキャラクター含めてエリゼ宮で料理を作ったり、ほとんど外交官のようなことをするのはちょっとどうかと。でも、エリゼ宮のエピソードが、その後のニューヨークでのエピソードでの大沢公の成長に繋がっていたりと、面白さは損なわれていない。


エピソードは中盤以降、実際の事件や出来事を元にしたストーリー展開が多くなる。これについては、否定的に描こうと思えばいくらでも描けるものを、かなりフェアな姿勢でストーリーに組み込んでいる。料理という国の文化を代表するテーマで、舞台が大使館という政治的な空間でありながら、WIN−WINの関係を目指すという外交の目的にも沿った物語だったと思う。


あと、主人公がモテモテすぎだよね。魅力的なキャラだけれど。