『エリジウム』

映画館で鑑賞、パンフレットも購入。



【ストーリー】
近未来、格差社会が究極化した世界で、死の病に冒された男が、天上の富裕層のみが住める世界『エリジウム』を目指す。


【見所】
ストーリー!
社会風刺SFとして、超優れている。
そして、これって『銃夢』の映画化だよね??


【感想】
85点!


あの、『銃夢』を実写映画化! と言ってもいいような映画だった。というか、『銃夢』が元ネタとしてある話だというのは、確実と観ていいかも。監督のニーム・ブロムカンプは『第9地区』でうねうねミサイルを描いた人だし、彼のようなSF好きが『銃夢』知らないわけがないと思うんだよね。でも、このレベルであの世界観を描いてくれたのだから、感謝といったところ。


たぶん、映画監督が『第9地区』で世界を瞠目させたニーム・ブロムカンプなので、当然と言ってもいいのだけれども、社会風刺SFとしては近年稀に見る作品だったと思う。というか、今年観たSF映画(アメコミもの含む)であれば、1番しっかりしたストーリーテリングが成されている作品だった。『第9地区』に比べるとスケールも予算も役者も、格段に上がった状態で撮影された映画だけれども、それに臆することなく良い作品を完成させた。


極度に貧富が広がり、地球では人口増加によって都市が総スラム化、砂漠化した世界で、わずかな富裕層は宇宙空間の巨大なコロニー『エリジウム』で、病老から解放された生活を送っていた……という設定がまずあって、そこから、元チンピラで今は真面目に働いている男マックスの、ブラック企業での出来事と、余命幾ばくもない身体でエリジウムに特攻をかける姿が描かれる。主演はマット・デイモンマット・デイモンは本当に便利なヒーロー役者になったな〜という印象。どういう作品でも、そつなく説得力ある主人公を演じること出来る。


ニーム・ブロムカンプといえば『第9地区』なんだけれども、僕はテレビ放映されたときに中盤以降からしか観ていなくて、それでも面白かったな〜という印象がある。「なんだなんだなんだ?」とてんやわんやしているうちに敵が襲い掛かってきて……という感じがとても面白かった。南アフリカアパルトヘイトを風刺していると言われているけれども、今のSF映画でこういう正統的な風刺SFを描く人がなかなかいないので、そこが新鮮だった。


僕が「上手いな〜」と思ったのは、スラム描写&ブラック企業描写。近未来のロサンジェルスと言われているところが、広大なスラムになっていて、その規模にビックリ。今はCGとかでどうにでもなるけれど、実際にメキシコの廃棄物処理場で撮影した映像は相当に説得力がある。同様に、主人公が働いている兵器会社のブラック企業ぶり。上司のノルマ至上主義で、社員の安全を一つも考えていないところとか、実際にアメリカとかではこういう現場が多いのかなぁと思わせるものがあった。エリジウムの防衛を任されている長官をジュディ・フォスターが演じているのも好印象。ああいう、凛とした役柄がますます堂に入った感がある。そして、その部下の戦闘部隊の悪党ぶりとかも良かった。


不満もないわけではなくて、その一番は、物語のキーになる医療装置をエリジウムが独占している理由が良く分からないという点。あんなに便利な機械があるのなら、地上にも多数配備したほうが、不法侵入とかの問題が解決できていいと思うんだけれど。あの医療装置を動かすためのコストとかも、そんなに高くなさそうだし。この辺りは、エリジウムでしか医療装置が動かせない理由とかがあれば良かったのかも(ラストの改変が必要だけれど)。あと、悪党3人組がクーデター計画を知ることができた理由に無理があるとか、エリジウムの一番偉い人が結局、革命を止めようとしているのは残念だとか、色々突っ込めばきりがない。


と、その辺りは、パンフレットでJAXAの人が、エリジウムそのものの妥当性を論じているので、ぜひそちらを読んでもらいたいところだ。パンフレットはかなり良く出来ていて、設定や解説、それにインタビューなど充実した内容になっている。専門家の人が、作品世界の設定について語るっていうのは、結構斬新で勉強になる部分が多かった。こういうサービスがあればあるほど、パンフレットを買う価値が出てくるよね。