『ウルヴァリン:SAMURAI』

映画館で鑑賞。3D吹き替えで。



【ストーリー】
愛するジーンを失ったローガン(ウルヴァリン)が、日本で新たな出会いと戦いに巻き込まれる。


【見所】
ヤクザ!
ニンジャ!
サムラーイ!!


【感想】
70点!


同じマーベルでも、アヴェンジャーズほどにはXメンは観ていないのだけれど、ある程度の知識はあるので、すぐに物語に没入することができた。さらに、最近は映画を観るときは、それが『ガッチャマン』であったとしても、パンフレットを買うことにしている。今作はパンフレットがとても良くできていて、東京都内の撮影ポイントの紹介や、アメコミの識者による解説などが豊富なので、なぜXメンのシリーズで日本が舞台になるのかも理解できた。


さて、今回は日本が舞台のハリウッド映画ということで、また怪しげな日本描写が出てくるのかなぁと不安だったり期待があったりかもしれない。その不安は見事に解消されているし、期待には十二分に答えてくれている。大規模なロケもされているわ、外人が考える日本イメージもあるわで、こういう映画に必要な外連味に溢れるルックになっていると思った。この辺りは、ハリウッドにとって日本が近い世界になったということの現れでないだろうか。東京と長崎の距離がアウディで行く距離なのはご愛嬌として、少なくとも『ガッチャマン』よりも日本描写が優れている。


この映画はアメリカ人が考える「こういう日本が観たい」という描写が盛りに盛られていて、しかも、そのどれもがクオリティが高い。特にヤクザ! ハリウッドでこのレベルのヤクザが出てくるのは、『ブラックレイン』以来のことだと思う。スーパーヒーロー映画でヤクザが出てきて勝負になるのか? と思わないでもないけれど、ちゃんと強面のヤクザを揃えているし、ちゃんと大きな寺(葬式)での襲撃というセオリーを守っている。この葬式でのヤクザ襲撃って、『仁義なき戦い』や『極道の妻たち』オマージュというよりも、ゲームの『龍が如く』(アメリカでの題名はそのまま『YAKUZA』)のオマージュでないだろうか。さすがに、坊主に化けてたヤクザを、ローガンが法衣の袖から見えた入れ墨で見破るっていうのは、どうかと思うが。


監督は、ジェームズ・マンゴールド。僕の中でのジェームズ・マンゴールドという人は、あの『アイデンティティー』の監督! というのが頭にある。つまり、どんでん返しの名手、というイメージ。でも、このイメージが一定の評価を保ったことってないよね。『シックス・センス』のシャマラン監督だって、今ではどんでん返しというよりも、トンデモB級映画の人という評価になっているし、ジェームズ・マンゴールドも、フィルモグラフィーを観てみると『ナイト&デイ』みたいな底抜けな作品を撮っている。でも、どうやら経歴を観る限りでは、「どんでん返し」よりも「ドラマ作り」に定評がある人っぽい。『アイデンティティー』も語りの洗練さがあったからこそ、どんでん返しが生きていたわけだ。そう考えると、ジェームズ・マンゴールドがこの映画の監督に指名された理由は、一歩踏み外せばトンデモ日本描写満載で笑いものになりかねない今作を、ちゃんとしたXメンの映画として成り立たせるための一手なのだろう。マーブルの監督選びの慧眼には畏れ入るばかりといったところか。


ただ、『ウルヴァリン:SAMURAI』という映画は、脚本にかなり難があると思う。この映画のラスボスであるシルバーサムライの正体があれなので、真田広之演じるシンゲンと、娘でヒロインのマリコの対立が「それって必要あったのか??」というものになっている。というよりも、端的に言えば、この話って家族で話し合えば全て解決すると思う。それが葬式会場でヤクザに襲撃させる必要があったのか? とか、マリコが矢志田家の後継者になっても父親のシンゲンの意向を無視することなんてできないだろうし、シンゲンにしてもマリコを上手く使いこなす器量はありそうだったから、中盤のザコ化した彼が可哀想だったし、事の真相が明らかになってみるとシンゲンって本当は悪い人ではなかったのかも、と思えてくる。また、ウルヴァリンにとっては、この話ってほとんど他人事なんだよね。葬式に出席せずに、さっさとアメリカに帰ってしまったらヴァイパーとかはどうするつもりだったのだろう?


あと、ついでに言えば、オープニングの熊を毒矢で撃って云々の話が、ラストの展開とうまく結びついていないと感じられた。それと、「外人」って言葉が外国人蔑視の言葉であるという思い込みって、結構根深いものがあるというのが気になった。全然、そうじゃないんだけれども、ヤクザが「この外人が〜!」みたいなことを怒鳴るのは、日本人からしてみると違和感がある。この辺りは、日本描写の変なところを修正したと自慢しているのだから、もっとボキャブラリーを駆使してほしかったところ。あと、現職の法務大臣がヤクザの元締めみたいなことをしていて、女遊びの現場をローガンに踏み込まれた挙げ句、ビルから投げ落とされるってところが一番のトンデモだった。現職の法務大臣といえば……(ハニトラに引っ掛かったと噂の)谷垣さんが思い浮かんでしまう。


というように、脚本には難があるけれども、面白い描写が目白押しなので、そういう部分はあまり気にならなかった。ローガンとマリコがラブホテルに宿泊して、「地下牢とナースと火星探検の三つの部屋があるけれど、どれを選ぶ?」と言われて火星探検の部屋を選んだり、人が死んでも反応しないパチンコ中毒の客とか、忍者に瞬殺される小川直也とか。オープニングで長崎に原爆が落とされるシーンは強烈。でも、捕虜収容所があんな近くにあるのに原爆なんて落とすものかなぁ(詳しくないけれど)。その後の、長崎でのウルルン滞在記みたいなシークエンスも良かった。スキヤキも出てくる! この映画に出てこない日本はないと思ったけれども、寿司と芸者は出てこなかった。マンゴールド監督は寿司よりもスキヤキ派なのか。日本刀を持った福島リラが大活躍! の日本人の美的感覚ではうーんというビジュアルはアメリカンな豪快さだ。


今回はミュータントが少ないものの、ヴァイパーを演じたコドチェンコワが超美人で良かった。彼女がどんどんミュータントとしての本性を露わにしていくほどに、衣装が露骨になっていくところとか、面白い演出だな〜と感心したり。忍者描写はヤクザ描写に比べるといいかげんで、しかもウィル・ユン・リー演じるハラダがそんなに魅力的でないという弱点がある。相手役がヒュー・ジャックマン真田広之だから、仕方がないと言えば仕方がないが、韓国人俳優をキャストするのであれば、それこそウォンビン辺りに演じてほしいキャラクターだったと思う。全体的に観れば、ギリギリ及第点だった。ラストのお楽しみも含めて。