『ローン・レンジャー』

映画館で鑑賞



【ストーリー】
兄を殺された男がローン・レンジャーとなり、ネイティブ・アメリカンの相棒トントと一緒に悪党を懲らしめる。


【見所】
ない!
ビックリした。


【感想】
ローン・レンジャーといえば、「ハイヨー、シルバー!」という掛け声と、怪傑ゾロの西部劇版といったイメージしかない。「ハイヨー、シルバー!」も宮崎駿の『紅の豚』でカーチスが言ってたのを覚えているくらいで、実際のモノクロ映像を観たわけでもなく、西部劇のテレビドラマ『ローハイド』のテーマ曲「ローリン、ローリン、ローリン〜」が『ローン・レンジャー』のテーマ曲だとずっと勘違いしているくらいの知識しかなかった。でも、『ローン・レンジャー』をディズニーが映画化! それも『パイレーツ・オブ・カリビアン』の制作陣で! さらにジョニー・デップも出ているよ! となれば、観ないわけにもいかない……と思ったが。


監督はゴア・ヴァーヴィンスキー、プロデューサーはジェリー・ブラッカイマー、脚本も『シュレック』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』を手がけた面々で、さらにジョニー・デップ主演で往年の名作のリメイクという、これほど失敗する要素が見当たらない肩書きも珍しいと思う。にもかかわらず、こんなにも微妙な出来になってしまったのは、ジョニー・デップという役者の扱いの難しさがあると思う。なんというか、『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』の辺りからハッキリしてきたのだけれど、ジョニー・デップは駒としては超優秀だけれど、自分が主導権を握ると途端にダメになる役者だなぁと。


ゴア・ヴァーヴィンスキーの監督作品を観るのは今回がはじめて。ハリウッドでは絶対に当たらないというジンクスにもなっていた、海賊モノをヒットさせた手腕はなかなかなものだと思う。痛快な娯楽アクションの監督としては、スピルバーグは別格としても、次くらいに名前が挙がるレベルにはあるのでは? ジェリー・ブラッカイマーに到っては、この手の映画に一枚噛んでいないのがおかしいほど、爆破と娯楽アクションの代名詞みたいなプロデューサーだったりする。ある程度、この布陣であれば、荒唐無稽ではあるだろうけれど、映画館に観るぶんには満足度の高い、「これくらいは」とイメージするハードルを越えるものは作って当然だろうな〜と思ったのに。


かつてのラジオドラマやテレビドラマの『ローン・レンジャー』との違いは、高潔で正義の味方であるローン・レンジャーと間抜けだけれど純粋なトントという力関係が、今回の映画版では完全に逆転している点にある。間抜けだけれど純粋なローン・レンジャーと、(ネイティブ・アメリカン的に)高潔なトントという。これは、主人公の成長を描く上では、そんなに思い切った変更ではないし、ハリウッドの脚本パターンからすると王道と言ってもいいくらいだ。それに、かつてのローン・レンジャーなんか誰も忘れているだろうから、こういう変更はむしろ好まれるものだと思う。


でも、この構造の変化は、ストーリー上の制約である「不殺」があるために、まったく退屈な要因になってしまっている。主人公のジョン・リードは地方検事として西部にやってきた頼りない男だが、その彼がローン・レンジャーとして成長する前から不殺の(法の下での裁きを尊ぶ)人であるために、こいつがさっさと引き金を引かないために、話がヒドい方向にいってるようにしか見えないという欠点が露呈してしまっている。映画的に言えば、「不殺」という制約は他のヒーローものにもある設定だけれども、バットマンにしろ剣心にしろ、ある程度内面の成長をしたあとで、殺す以外のメソッドを確立しているからこそ「不殺」が成り立っている。


さらに言えばローン・レンジャーのような西部劇の世界では、法なんてあってないようなものだし、不殺を担保する裁判所や刑務所(バットマンで言えばアーカムアサイラム)もなさそうだし、なにをもって法の裁きとしたいのかが良く分からないという問題もあると思う。この辺りは、悪党をバンバン殺しまくっていた『ジャンゴ 繋がれざる者』のほうが、法の裁きを意識したものになっていただけに、観ていてなんだかな〜という気持ちが強くなっていった。で、「不殺」の一番の問題点である、自分の手で殺さなければ結果的に悪党が死ぬのはどうでもいいのね、という部分がクリアになっていないのも気になった。悪党側は善良な人々を殺しまくっているので、ローン・レンジャーも「目には目を」で悪党を撃ち殺しまくったほうがいいと思うんだけれどね。


ストーリーについては『パイレーツ・オブ・カリビアン』の脚本家たちが関わっているにしては、ショボイの一言だった。まず、敵がショボイ。見せ場が『リンカーン/秘密の書』と被っている。ヘレナ・ボナム・カーターがなんのためにいるキャラなのか分からない。老トントの回想という筋立てが有効に機能していない。テンポが悪い。ネイティブ・アメリカンの突撃を機関銃で殺戮って、安い『ラスト・サムライ』のオマージュを観させられたな〜と。そして、ローン・レンジャーが活躍しない! これは致命的だった。人間的に甘くても、ちゃんとヒーローとして中盤の見せ場みたいなものを作るべきだったのでは? 鉄道王レイサム・コールが「マスクのレンジャーが噂になっていた」と言うけれども、そんな活躍してないだろ! と誰もが思うはず。


映画の物語が、そもそも老トントの語り(信頼できない語り手ってやつね)なのだし、レンジャーたちの埋葬シーンでちらっとピーナッツ袋を置いたりしているのだから、『ネバーエンディングストーリー』みたいに聞き手の少年の反応がダイレクトに、ローン・レンジャーの世界に影響を与えるような構成にしたらよかったのに。絶体絶命のときに、少年が持っていた(で、交換した)オモチャのピストルがなぜかトントの手にあって、危機を脱するとか。もしくは、荒唐無稽なローン・レンジャーの世界が、少年のいる1930年代のアメリカと最後に繋がるとか。やりようは幾らでもあったはず。


いろいろ書いたけれども、最後の列車での対決はそこそこ面白かった。特に、騎兵隊の隊長との車輌を挟んでの撃ち合いは良かった。この騎兵隊の隊長は、パンフレットでは紹介もされていないんだよね〜重要な敵キャラなのに。あと、西部劇の風俗描写は頑張っていたと思う。鉄道建設に中国人が駆り出されていたところとか。正直言って、それくらい。期待したよりも満足度は低かった。