『風立ちぬ』

映画館で鑑賞。


【ストーリー】
少年の頃、アニメーションに魅せられていた宮崎駿は、ウォルト・ディズニーの夢とシンクロして、将来はアニメーション作家になることを決意する。で、東映動画に入社した宮崎駿は、盟友の高畑勲らとアニメーション作りに邁進して、ついに傑作『ルパン3世 カリオストロの城』を作り、劇中のヒロインにも恋をしてしまう。だが、ヒロインは「萌え」の業病に冒され、天才が1人背負った傑作の数々も、組織的に傑作アニメを出してくるピクサーに敗北してしまう。それでも、「生きねば!」と思う宮崎駿だった。


……という話を、堀越二郎の物語に託した作品。


【見所】
女性キャラがみんな美しい!
これは特筆できる部分。まさに、宮崎アニメのヒロインの集大成。
あと、戦前の日常描写ができる数少ないクリエイターとしての宮崎駿は、日本の至宝だと思う。


【感想】
色々と深読みができる作品だった。


見る前は、絶賛評しかなくて「微妙だな〜」と思っていたけれども、映画ブログをしている破壊屋さんが「微妙だな〜」というツイートをしていたので、がぜん見る気になった。ちなみに、僕は宮崎駿作品は『もののけ姫』で止まっていて、『千と千尋の神隠し』も『ハウルの動く城』も『崖の上のポニョ』も観ていないです。なんというか、流行に乗り遅れる気満々というか、そのうち観ればいいやと思っている内に見過ごしたというか。でも、宮崎吾朗監督作品は『ゲド戦記』も『コクリコ坂』も観ている。そういえばエヴァンゲリオンも新劇になってから観ていないや。



で、僕の『風立ちぬ』を観た感想は「良い映画だった」ということに尽きる。1人の男の物語として面白かったし、ヒロインが綺麗だし、泣けるしで言うことないじゃないですか!という。この映画が傑作かどうかと言われると、ちょっと首を捻るのだけれども、さすが宮崎駿というか、安定して長打を放つことのできるクリエイターの作品として、十分に「乗れる」ものだったと思う。あまり不評が聞こえてこない(ポニョみたいじゃないっていうのは論外として)のも、そりゃそうだろうな〜と頷ける映画で、納得度も高かった。


ストーリーは第一次世界大戦から関東大震災を経て、第二次世界大戦に至る不穏な時代の中で、航空機の開発に執念を燃やす堀越二郎を軸に描かれている。堀越二郎については良く知らないのだけれど、wikiを観てみると、意外にアニメの堀越二郎そっくりだったのでビックリした。細面で眼鏡の青年というキャラクター造詣として(声以外は)完璧。しかも天才属性まで持っているしケンカも強いという完璧超人ぶり。タマフルの『眼鏡男子特集』で福田利香先生が熱く語っているのも頷けるキャラクターだった。この堀越二郎という一人の天才が夢に向かって邁進し、ついに零戦というマスターピースを作り上げるが、結局は戦争に負けてしまう……というのが大筋。でも、史実の堀越二郎は80年代まで生きるし、戦後も航空機の研究開発の第一線に立ち続けているので、「生きねば!」というテーマにそって脚色された部分は多いと思う。


「夢」と「呪い」を表裏一体のものとして描いている、という評を良く見るけれども、それにしては「呪い」の部分がそんなに描かれていないよね、という印象。「呪い」の部分を描くのであれば、零戦開発の栄光(夢の達成)の後に当然訪れる、敗戦をそれなりの時間を掛けて描かないといけないのに、ちょっと絵を出してみましたというくらいにおさめている。ヒロインの菜穂子が死ぬシーンも描かれないし。これは、なんでこんな作りになっているのかと言うと、それは堀越二郎宮崎駿だからだ。つまり、宮崎駿は自分のことを『風立ちぬ』で描いているので、明確な「呪い(日本のアニメ業界の崩壊)」の結末がまだ出ていない現状では、それを描けなかったのではないかな〜と。


ヒロインの菜穂子は明確に「芸術の女神」として描かれている。それと同時に、宮崎駿の理想のヒロイン像だと思う。僕は観ていて「クラリスに似てるな〜」とずーっと思っていた。カリオストロ公爵みたいな顔(でも良い人)の父親から堀越二郎がゲットするというのもクラリスっぽいし、他愛のない紙飛行機で心を通わせる描写も他愛のない手品で手籠めにされるクラリスに似ている。そういえば、カリオストロの城でも、序盤で水を飲んだり飲ませたりという描写もあったような。で、そういう宮崎駿の理想のヒロインが肺病に冒されて山奥で療養しているというのは、現代のアニメが宮崎駿の理想のヒロイン像を(本人から観て)汚す方向で発展していったことと無関係ではありえないと思う。


さて、堀越二郎宮崎駿として考えると、堀越二郎の声を庵野秀明がしている理由もそれとなく推察できる。宮崎駿にとっては、この腐れきった日本のアニメ業界はピクサーとかに完全敗北したものの、それでも「生きねば!」という気持ちを次代に伝えたいという想いから、庵野秀明を起用したのだ。つまり、庵野起用は宮崎駿からのバトンタッチに他ならないと思う。


あれ? 宮崎吾朗は??


史実の堀越二郎には息子がいるのに、この映画では息子出てこないよね。そんなに認めたくないのか吾朗を。そんな不憫な気持ちも見終わったあとに感じさせる作品だった。


【おまけ】
庵野秀明の声優起用は、他の声優(特にカプローニを演じた野村萬斎は100点満点だった)に比べて数段落ちるのは確かだった。見ていれば、そんなに気にならないのだけれども、さすがに失敗していると言わざるをえない。この辺りは、宮崎駿の意見が全て通ってしまうジブリだからこそで、アニメ作りに徹底したブラッシュアップをかけるピクサーであれば考えられないことだと思う。この辺りも、1人の天才が背負ってしまう日本と、そうでない世界の差を感じさせられる。


あと、演出について、ちょっと思ったのは「乗り物」の使い方を意識しているような気がした。飛行機、列車、船、自動車……特に今回、列車の場面が多いのが不思議だった。いろいろな乗り物が出てくる作品なんだけれども、それがどういう働きを場面場面でしているのか、これは何度か観ることではじめて理解できるのかもしれない。