『ウォンテッド』

スカパーで鑑賞。


ウォンテッド [DVD]

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【ストーリー】
冴えない男が殺し屋の素質を認められてスカウトされる。


【見所】
過剰な殺しのテクニック。
そして、「俺はこんなもんじゃねぇ」と思う中二病患者のためのポルノ。


【感想】
もし、あなたの周りに、
クソ上司
がいて、
アンジェリーナ・ジョリー
がいなければ、そして社会に対する鬱屈した不満があるのなら、きっと面白いと感じられる部分があると思う。



アンジェリーナ・ジョリーが出演する、弾丸を曲げるというアホなテクニックが見所の映画、という情報は知っていて、ディスカバリーチャンネルの『怪しい伝説』でも取り上げられていたので、観たいな〜と思っていたけれども、鑑賞してみると思った以上に中二病要素が満載な映画だった。というか、アンジーって、中学生の妄想に出てくる女を演じさせると一級品やね。


監督はカザフスタン人監督のティムール・ベクマンベトフという人。僕はこの人の作品は『リンカーン/秘密の書』を観たくらい。『ウォンテッド』とも共通しているけれども、荒唐無稽な物語を、それなりに映画のスケールで成立させる手腕がある人だと思う。過剰なケレン味も。臆面もなく弾丸を曲げてみせたり、キーボードで殴ると「ファックユー」のキーが飛び散ったり、すぐ回復する風呂とか、殺し屋の特訓が拷問に近かったりとか。アクション演出に関しては、ガンアクションよりもカーアクションのほうに重点が置かれていると思った。ちょっと笑ってしまうような車の使い方をしている。


原作はグラフィックノベルみたい。織り機から暗号を読み取って暗殺するという、無駄に曰くありげな設定も、あちらの漫画っぽい設定だなぁと思った。でも、この映画は根本的には1999年に公開された二つの映画『ファイトクラブ』と『マトリックス』の直径にあることは疑いようもない。主人公は完全に『ファイトクラブ』のエドワード・ノートンだし、その彼が、実は選ばれし者だったというのは、『マトリックス』をどうしても連想してしまう。最後の殴り込みの場面とかは『リベリオン』っぽくもある。


というよりもそれを念頭に置いて『ウォンテッド』という映画は作られているのだと思う。この辺りの本歌取りの上手さも監督の才能ではないかな。過去の傑作を踏まえることで、この映画の見せ場である荒唐無稽なアクションを、「こういう世界観だから」と納得しやすくさせていると思う。これがないと、いくらなんでも成立しづらい話だ。


役者は映画内のコマとしての役回りを十分果たしていた。モーガン・フリーマンの役だけは、正直なところ彼よりももっと良い人選があったと思うけれども。でも、意外性はあって良かったとも言える。アンジーのキャラクターは、もう少し説明があったほうが、最後の選択に深みがましたと思う。この人は、なにを考えているのか良く分からないキャラんだよね。これは要するに、アンジーが殺し屋という稼業をどう考えているのか、という明確に示すシーンがあれば(もしくは、主人公に対してどういう気持ちを持っているのか示していれば)クリアできた問題だった。ここは例えば、電車の大惨事で無関係の人が大勢死んでしまい、アンジーの殺し屋としてのアイデンティティが揺らぐとか、そういう展開のさせかたもあったのでは?


でも、基本的にはこの映画は、中二病に冒された人が「俺もこんなもんじゃないんだ! アンジーと出会えたら!」と思えばそれで成功なわけで、それに関して言えば、十分要求を満たした作品であると言える。