『エネミー・オブ・アメリカ』

テレビで鑑賞。


エネミー・オブ・アメリカ 特別版 [DVD]

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【ストーリー】
ふとしたことからNSAに追われることになった弁護士が逃げ回る。


【見所】
「なし崩し」を描けばトニー・スコットの手腕は超一級!
そして練られた脚本。


【感想】
鑑賞するのは2回目か。それでもかなり面白かった。


人権派弁護士が、国民の監視を目論むNSAに追われるというのが物語の基本。両者ともに「なにがどうなってる」的なところがあやふやなまま、どんどん追い詰め、追い詰められていくという展開がスリルを生み出している。物語としては『北北西に進路を取れ』などの、古き良きスパイ映画のプロットをそのまま踏襲していると思える。俗に言う「マクガフィン」的なものも出てくるし、「圧倒的な組織vs機知に富んだ個人」という図式も、よくある物語の現代的アレンジだ。


注目したいのは、この映画って911以前に公開されているということ。実際のアメリカは911によって、かなり強引な捜査もできるようになったらしく、この映画のような行為も許容されるようになってしまった。ラスト近くで、ジョン・ヴォイト演じるNSAの高官が、ジーン・ハックマンにNSA(と国民盗聴)の存在意義を蕩々と語る場面があるけれども、当時は「やりすぎじゃないの?」という感覚だっただろうけれども、はからずも現実がNSA高官のセリフに正当性と真実味を与えてしまった。


監督はトニー・スコット。去年自殺したのが本当に悔やまれる。トニー・スコットは、物事がよく分からないまま「なし崩し」的に事態が大きくなっていく展開の描き方が本当に上手いと思う。『アンストッパブル』とかはそれだけで構成されているような映画だし、『エネミー・オブ・アメリカ』でもよく分からないまま追跡される展開を、本当に小気味良く描いている。また、手垢の付いたストーリーを現代的に面白く見せることについては、本当に一流の人。


感心したのは、冒頭のマフィアとの交渉が、主人公が人権派弁護士で肝も座っているというキャラクター紹介と同時に、ラストの壮絶な相打ちの伏線になっているというところ。普通の映画だったら、序盤のマフィアとの交渉シーンは、ただの人権派弁護士の人物紹介で終わっていたと思う。それが、観客もビックリする「え? ここに繋がるの?」という胸が空くラスト! こういう無駄のない脚本は「練られているな〜」と唸ってしまった。ただ、この練られた脚本とテンポの良い展開には難点もあって、その最たるものがブリルって誰なのか、あそこで主人公がなぜブリルと接触しようとするのかが、観客には飲み込みづらいように思えた。


俳優はみんな良かった。特に技術斑としてノリノリでウィル・スミスを追跡していくジャック・ブラック! 今の、コメディアンのイメージとは真逆のシリアスな演技が目を引いた。吹き替えの声も渋い感じなんだよね。ちょっと前ならジョー・パントリアーノ、今ならジョナ・ヒルとかが演じていたキャラで、『スクール・オブ・ロック』後のイメージからすると新鮮に映る。ちゃっかり生き残ったのは彼らしいけれど。


ジーン・ハックマンや、ジョン・ヴォイドの顔面力のあるオヤジも映画に彩りを与えていた。あと、NSAのえげつない手法には笑ってしまった。あんなことをされたら、僕なんか一瞬で捕まってしまうよね。Wikipediaを見てみると、実際にNSAやCIAはこういう方法を使っているらしい。それにしても、こんなNSA完全悪者の映画に協力するアメリカの懐も広いよなぁと思った。