『羽人物語 星籠』

大阪で開催された文学フリマで購入。作者は咲祈さん。


カミサマと呼ばれる存在に人類は脅かされて、雲の中の空中都市に隠れ住んでいる世界で、戦闘機として生きる瑠璃と、男娼として生きる玻璃の双子の運命を描く。題名の「星籠」は男娼街の名前で、続編には娼婦街を舞台にした「花籠」がある。


設定やストーリーはSFなんだけれども、「欠けた魂がさまよう」話になっていて、世界観からの戦闘描写よりも登場人物ごとの心のありようが主眼になっている。この筋立てや、人物配置、生々しい話を透明感のある文章で中和する手法は、このジャンルでは良くあるもので、作者もあとがきで「好きなものを編み込んで(中略)できた」と書いてある。というわけで、オリジナリティはないんだけれども、ジャンル小説としては、必要な要素がそろって、それが上手く表現できているかのほうが重要なわけで、質的にはとても高いと思った。


あと、文章的には、語り手が場面ごとに変わる。これも登場人物ごとの心情が描かれているため(また、1人に心情吐露が集中しないため)面白く読むことができた。僕は「視点を動かすべきではない」というのも理解できるけれども、こういう「他者」のいない世界を描く場合は、動かしても問題ないと思う。ややもすると、くどくなるしね。


ラストも、欠けていた魂が1つに戻るまでが描かれているし、特にここがどうかな〜というところもない。しっかりと形になった小説を読んだという満足感があった。