『ヒッチコック』

映画館で鑑賞。



【ストーリー】
ヒッチコックが『サイコ』を完成させる。


【見所】
作品の産みの苦しみ。
暗中模索の中から傑作というものは生まれる……という世の真実。


【感想】
思った以上に、普通な出来だった。


ヒッチコックの『サイコ』は以前、ビデオで借りて観たことがある。僕は、そのときはあまりピンとこなくて、「こんなものか〜」という印象だったと思う。今観たら、また別の味わいがあるのかもしれない。もちろんシャワーシーンは怖かった。でも、そのシャワーシーンが終わって、私立探偵がモーテルに行く辺りになると、ちょっと微妙かな〜と。もう記憶も朧気なので、あまり語れることもないのだけれど。


というわけで、映画『ヒッチコック』はヒッチコックが映画『サイコ』を完成させるまでの話(でも、ほとんどフィクション)になっている。監督はドキュメンタリー映画アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』を撮ったサーシャ・ガヴァシ。『ヒッチコック』は彼の劇映画のデビュー作になる。個人的にはヒッチコックのパロディーも含めて、なかなかに上手い人だなと思った。劇映画の初監督作品で、それがヒッチコックを描いた映画で、アンソニー・ホプキンスを引っ張り出せたのも頷ける。


主眼は、天才映画監督アルフレッド・ヒッチコックと、その妻のアルマの愛と葛藤で、そこに名作(というか、誰も観たことがない新しい映画)を作ろうとするときのクリエイターの悩みが描かれる。ヒッチコックという変態のオッサンが、映画監督として奮起するための作品として『サイコ』を選んだけれども、そこには沢山の障害があり、夫婦仲もギクシャクして……というのは、けっこう上手く描けていると思った。ヒッチコックを演じたアンソニー・ホプキンスも、妻のアルマを演じたヘレン・ミレンも芸達者で、特にヒッチコックの「変態だけれど憎めない」感じが良かった。


面白かったところは、やはりクライマックスの映画館での上映シーン。あのシャワーシーンから、音楽が鳴り響くときのヒッチコックの踊る姿と、観客の悲鳴。やっぱり『サイコ』はあのシーンがあってこその『サイコ』だと思う。そして、観客が思い通りの反応を示したときの、ヒッチコック会心の表情は、クリエイター冥利につきるだろうなと。個人的にヒットだったのは、ジャネット・リーを演じたスカーレット・ヨハンソン! 僕はああいうタイプ(茶目っ気があってしっかりしている女性)に弱い。


でも、ちょっとな〜と思う部分もあって、それはヒッチコックの影の部分としてエド・ゲインが出てくるところ。ここはもう少し洗練された描きようがあったのではないか。気持ちは分からないでもないけれども、エド・ゲインとヒッチコックじゃあ比較の対象(もしくは陰と陽の対比)として、ちょっと人間力が違いすぎるんではないかと。ただ、作品そのものを台無しにするほどでもないし、物語をより分かりやすくしているとも言える。浮気寸前まで行ってたアルマがヒッチコックとよりを戻すのも、不倫相手(この人も実在の人らしいけれども、描かれかたがヒドいねw)の不倫現場を目撃した……ということがあってなのも、もう少し上手い話運びができたのではと思う。


あと、やはり『サイコ』は観てから、この『ヒッチコック』を観たほうがいいのは確か。観なくても分かるようには描いているけれども、ヒッチコックを描いた映画なんだから、ヒッチコックの作品を知って観たほうが何十倍も楽しめると思う。