『竹藪 vol.6』

4月14日の文学フリマで購入。小説系の同人誌で短編小説が6編収録されている。奥付を見てみると、早稲田大学映画サークル内の文学部生を中心に、読書会としてはじまったサークルのよう。読んだかぎりでは、少人数でしっかりとした内容の短編小説を書くグループだと思った。vol.6ということで、継続性も評価したいところ。
というわけで、短編小説の感想を書いていきます。


和田倫明:著 お言葉 『おにいちゃんのゆんゆんえ』
3編ある内の一つ。瀬戸内海にある隠れ里(隠れ島)を舞台に、瀬戸大橋から落ちて島に住むことになった青年と、島の人々との交流を描く。


タイトルだけでは「ゆんゆんえ」がなんなのかは分からなかったけれども、読み終わってなるほどねと。この小説は新しいと感じる部分がたくさんある、面白い作品だった。内容は「島モノ」で、部外者が島にやってきて、オープンな島民と寝食を伴にしていく……というよくあるもの。新しいと感じたのは、この小説の舞台となっている島が、現代の隠れ里になっているという点。あんまり他では読んだことがない設定で、物語の推進力を生み出すことに繋がっていると思う。


しかも、隠れ里と言っても、島民は外に出て出稼ぎをしたりと外の世界ともある程度繋がっているようで、途中からは島の不思議なところもどうでもよくなるなど、ゆるいところが魅力に繋がっている。物語は少女に「ゆんゆんえ」をせがまれた主人公がそれに応じると、意図しない赤っ恥になってしまうというものだけれども、これって主人公が島民になるための儀礼を描いているのかなぁと思ったりした。なかなか軽妙で、こんな島があるなら僕も行ってみたい。


和田倫明:著 お言葉 『或る宝石商の弁舌』
この短編は「騙り」の技を楽しむもので、それ以上でも、それ以下でもない。主人公は文学批評の用語で言うところの「信用のできない語り手」で、宝石商というよりも詐欺師に近い話術の持ち主。「騙り」は「語り」よりも賞味期限がはやく来てしまうので、すぱっと終わらせたのは正解だと思う。


和田倫明:著 お言葉 『悪人はなかなかいない』
設定は映画で言えば『第9地区』、漫画で言えば『シュメール星人』で、物語の展開で江戸っ子の鰻屋が絡むところが面白い。故郷の星に帰るために秘伝のタレを必要とする宇宙人に、鰻屋はなんと答えるか……がこの作品のキモ。正直、帰りたいという宇宙人の希望を、一介の鰻屋がどうこうできるとは思えないけれども、小説的な面白さとして、意外なところに着地する終わりかたが良かった。なんというか、馴染んでしまうエンド?


柿:著 『赤いひょうたん』
コットンのようなふわふわした読み心地がした短編小説。女性二人の淡々とした日常を描いている。なにが起こるわけでもない物語だけれど、面白いのは二人一組の(というよりも二人で一人みたいな)書き方で、これが物語をちょっと現実離れした雰囲気を醸し出していると思う。


岩井啓悟:著 『羽豆岬』
いきなり×印がついていて驚く。メールのやりとりや、ルビをBGMとして使う手法など、かなりトリッキーな手法が目立つので、この×印もそういう仕掛けの内なのかなぁと思うけれども、特に意味が見当たらないのでミスなのかもしれない。ジョナサン・サフラン・フォアのようなヴィジュアル・ライティングを、狙ってやってるとしても面白い。


分量はかなりあるけれども、メールのやりとりなどで増量されている感があるので、そんなに読むのに時間は掛からなかった。SKE48のファンが歌枕を訪ねる旅に出る……という内容。アイドルにもアイドルのファンの世界にも疎いけれども、男たちの旅行ってこんな感じだよねという親近感から、そんなに読むのが苦痛ではなかった。文章については、この書き方が良いか悪いかは分からない。でも、「アイドルグループのファン」という今が旬の文化を題材にしているので、こういう目新しい書き方のほうが似合っているように感じられた。


あと、ここまでやるのなら、脚注とかももっとムチャクチャ暴れてもよかったように思った。主観丸出しの脚注とか。ここだけは真面目にサブカル的な解説をしているので残念。


渥美佑一:著 『庭のサクラの下で』
なぜ庭のサクラが切られようとしているのか、なぜ語り手はベッドから抜け出せないのか、けっこう重要なところが語られていないのは、作者の狙いであるように思えるけれども、僕はそれが成功しているとは思えなかった。ただ、母親の思い出話は良かった。


とりあえず、全作品読んで感想を書いてみました。どれもレベルが高くて良かったと思います。