『ミリオンダラー・ベイビー』

スカパーで鑑賞。


ミリオンダラー・ベイビー [DVD]

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【ストーリー】
ぼろいジムを経営するフランキーの元に、女子ボクシングのボクサーになるためにマギーがやってくる。二人は連戦連勝で栄光をつかみかけるが……


【感想】
クリント・イーストウッドの監督作品は『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』の二作品を観ている。でも、イーストウッドが主演までつとめた映画を観るのは今回がはじめてかもしれない。というか、老人になってからのイーストウッド主演映画って、まったく観ていないことに気付く。


今や、「役者出身の映画監督」でランキングを付ければ、チャーリー・チャップリンの次に名前が挙がるだろうイーストウッドの作品の中でも、『ミリオンダラー・ベイビー』はかなり名高いものという知識はあった。アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞を受賞という、非の打ち所がない経歴が輝く。女子ボクシングを描いた作品というのは知っていたし、それがガラッと変わる……というのも知っていたけれども、こんなに急転直下な話になるのかと驚いた。


クリント・イーストウッドって自分を格好良く(渋く)見せる名人」という評価をなにかで読んだ記憶があって、映画を観ていると確かにそうだよなぁと感心した。イーストウッドってあんまり演技は上手くない(眼を細めて苦虫が走ったイーストウッド顔以外に幅がない)のに、そういう彼のパグリックイメージを逆手にとって映画を作ることの名手だと思う。監督としては、「最善を尽くしたのに敗れ去る人」に対する暖かい眼差しがあるような気がする。ただ、僕自身がイーストウッド映画をあんまり観ていないので、そうでないものもあるとは思うけれど。


ただ、『ミリオンダラー・ベイビー』という映画は、僕が感じた「最善を尽くしたのに敗れ去る人」を丹念に描いている映画だった。それも、最善を尽くしたのに敗れ去る人は、もはや勝敗すらもどうでもよくなる、ということを描いていると思う。これはボクシングを題材にした映画としては画期的だし、ダーレン・アロノフスキーの『レスラー』にも通じる。中盤以降、ボクサーとして生きていけなくなったマギーの痛々しい姿と、彼女を楽にするべきかどうか悩むフランキーの姿には心打たれた。


この映画については「ボクシング映画だと思ったら違った」的な感想があるけれども、僕はボクシング映画だと思う。ボクシングを描いていればなんでもボクシング映画だ、という言い方もできるけれども、ボクシング映画でなければ前半の世界戦の部分なんて要らないわけだし、もっとタイトな時間で話をまとめることもできたと思う。前半のボクサーとしてのサクセスがあるからこそ、後半の半身不随状態の悲しさも増すわけだし。


それよりも気になったのは、イーストウッド共和党員で、しかも人生も終盤に差し掛かっているからなのか、「最善を尽くせば、敗れ去ってもそれはそれで良い人生じゃん」と本気で思っていそうなところ。これって政治家として市長も経験したイーストウッドの行き着いた考え方としてはどうなのかなぁと。ホワイトトラッシュに対する視線の厳しさとか、「ラスベガスに見舞いに行く前にディズニーランドで遊んでた」とか、「最善を尽くさない人」をあそこまでいやーな感じに容赦なく描くのも、それはそれで凄い。この辺りのイーストウッドの政治的なスタンスを考える上でも、なかなか面白い映画だと思う。


映画としては圧巻の出来。アカデミー賞の作品賞に選ばれるのも頷ける。