『殺意の夏』

シネフィルで鑑賞。


殺意の夏 [DVD]

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【ストーリー】
南仏の小さな街に美女がやってきて、自動車修理工の男と恋人同士になる。やがて結婚するが、女には秘密があって……


【見所】
イザベル・アジャーニ
うーん、キャバクラとかでぜひ手玉に取られたい。


【感想】
映画を分析すれば、
ストーリー:2
イザベル・アジャーニ:8
くらいだと思う。こう書くとストーリーが悪いように思えるかもしれないけれども、ストーリーだってかなり良かった。つまり、それほど、イザベル・アジャーニが突出した魅力を放っているということ。


80年代の映画で上映時間2時間超というかなりのボリューム。でも、イザベル・アジャーニ南仏にそんな女がいるか! と言いたくなるような脱ぎッぷりのいい肉体と、可憐で挑みかかるような眼差しで長時間も気にならなかった。80年代だな〜というボディコンシャスと太い眉毛に、バブルの時代を思い返してしまったものの、舞台が南仏なので何とも言えない浮世離れした感じがある。


話としては松本清張あたりが好みそうな女の復讐譚になっている。母親をレイプして自分を孕ませた父親に復讐する、というイザベル・アジャーニ演じるエルに翻弄される男たち。しかし、復讐の相手が分からないというところがキモ。恋愛映画というよりもミステリー映画に近い。主人公のパン・ポンは終始ストーリーの蚊帳の外に置かれているために、ラストであんまりな凶行に走るという、フランス映画ならではのエスプリが効いたラストになっている。これ、ハリウッド映画だったら真相を知ったエルが改心して、ハッピーエンドで終わると思うんだけれどね……


子供の頃に義父にレイプされかけたトラウマを持っていて、以来ずっと復讐を心に誓いながらも、不安定な精神状態のエルというキャラクターを、イザベル・アジャーニはたぶん素の演技でやっているよなぁという良さがあった。どこの売女だという衣装で田舎町を闊歩するイザベル・アジャーニ。意味もなく水着で日光浴をするイザベル・アジャーニ。泣き叫んだり従順になったりするイザベル・アジャーニという、女優の魅力だけで押し通している物語が潔い。フランス映画って、変態の監督が自分の性癖を開陳する……傾向があると思うが、たぶん監督はああいう小娘に弄ばれたいという願望があるんだろうな……と。


ストーリー的には、語り手がころころ変わるのは、こういう映画としてはどうなんだと思わないでもない。途中で耳の遠いおばあちゃんの語りがあって、あの辺りとか必要ないなぁと思った(イザベル・アジャーニが全裸入浴するという必要性があるけれども)ものの、フランス映画ってこういうものだという感覚もあるので、そんなにマイナスではないかもしれない。南仏好きにはたまらない描写として自転車レースとか、結婚式とかがあって良かった。あっちのほうでもお祝いに三三七拍子みたいなことをするんだね〜というのは大発見。あと、中年女性の顔がけっこうみんな似ているので、誰が誰か飲み込むまでに時間が掛かった。


ラストに向かっての展開は意外性があって良かったものの、あれって話自体はエルの義父の告白で終わっているので、その後のパン・ポンが凶行に到る過程は完全な蛇足だった。精神病院で座って足を前後させるイザベル・アジャーニが可愛かったからいいけれど。こういうふうに、この映画は「ここはちょっとね……」というところを、ことごとくイザベル・アジャーニでカバーしているという、恐るべきイザベル・アジャーニ映画だと思う。このイチローもビックリな守備範囲の広さ。女優の名演が、映画の根幹を支えることもあるんだな〜と感心した。